リリー・フランキー

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン      

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン 2010年10月8日(金)
 ボクは小倉で生まれ、物心がつき始めた頃にはオカンと二人、小倉やオカンの実家のある筑豊の炭坑町を転々として暮らしてきた。オカンの生活は苦しいはずなのに、ギターやバイクを買ってくれた。ボクが若い頃のオトンの後を追うように東京の美大へ進み、就職もしないで貧苦にあえいで暮らし、やっと落ち着きだした頃、オカンがガンの手術をする。ボクはオカンを東京へ呼び寄せ、初めて自分の家と思える住まいで二人暮らしを始めた。
 料理がうまくて、花札が強くて、人付き合いの好きなオカンに、破天荒なオトン、いかにも北九州っぽくておもしろい。物語に転換が訪れるたびに章が変わり、章のはじめに箴言めいた言葉が語られる。テレビドラマっぽい構成だが、この箴言がなかなか効いている。学生の頃を思い出してしまった。そして、最後は亡くなった父母のことを思った。「親孝行したい時に親はなし」、この言葉は未来永劫変わらないのだろうか。読み始めて、なにか文章に違和感を感じた。繊細に練られた文章ではないが、それがこの作品には合っているようだ。本屋大賞受賞の大ベストセラー。