李良枝(イ ヤンジ)

 

由熙 ナビ・タリョン      

由熙 ナビ・タリョン 2007年1月15日( 月)
 「由熙」:叔母の家に下宿していた在日同胞の由熙が、S大学卒業を目前に中退して日本へ帰って行った。母国に憧れて留学しながら、韓国人や韓国語が好きになれなかった彼女の心にどのような葛藤があったのか・・・。
 作者は、在日二世として生まれ、両親が帰化したことで日本国籍を持つ。朝鮮人であることが知られることへの恐れや両親の離婚裁判から家出を繰り返し、一時京都の観光旅館で働く。早稲田大学へ入学するがすぐ中退し、韓国の琴や舞踏を習い始め、政治運動にも関わる。若い時から酒、煙草になじみ、二人の兄を相次いで亡くし、かなり破滅的な生活を送ったらしい。「ナビ・タリョン」はそんな半生を、ソウル留学中に書上げたもの。「『日本』にも怯え、「ウリナラ」にも怯え戸惑っている私は一体どこに行けば心おきなく伽倻琴を弾き、歌を歌うことができるのだろう。」「ウリナラは生きている。風景は移り行く。私はその中で伽倻琴を引き、パンソリを歌い、そしてサルプリを踊っていく。私のそのあり様のまま生きていくしかない、生きていくことはどこにあっても変わらない。」
 「かずきめ」、「あにごぜ」も、視点を変えたバリエーションのような作品。
 在日朝鮮人の問題については傍から無責任なコメントはできないが、それは別としても、エキセントリックで痛々しい生き様には引きつけられた。「由熙」は芥川賞受賞作。