京極夏彦

凶骨の夢 鉄鼠の檻 絡新婦の理 塗仏の宴 宴の支度
塗仏の宴 宴の始末 陰摩羅鬼の瑕 巷説百物語 邪魅の雫
覗き小平次      

凶骨の夢 2003年8月14日(木)
 京極夏彦の本は非常に分厚くて、今回は970ページ近いが、おもしろいので、ついつい引き込まれてしまうのだが、読んでも読んでも終わらない。妖怪や宗教に関連した不思議なさまざまな出来事や一見関連のない殺人事件が一つに結びついていくということもあるが、その妖怪や宗教についてのうんちくが長いせいでもある。
 鬱病の作家関口、超能力を持つ探偵榎木津、豪快な刑事木場がそれぞれ事件に巻き込まれ、共通の友人で、神主であり古書店京極堂の主である中禅寺が事件の全体像を刷り合わせて、憑き物落としという形で解決するというのがいつものパターンである。
 今回の事件は、もう一つの人格や夫を殺したという幻覚に悩む女性、幼児期からの夢におびえる精神分析医、やはり幼児期の体験に悩む牧師が登場し、金色の髑髏が発見される騒動、宗教団体の集団自殺が起こり、女性が現実に夫を殺してしまう。そして、これら全てが最後に一つに結びついていくのだが、この作品ではさらに綾辻行人的な仕掛けがあり、難解を通り越しておもしろすぎる。

鉄鼠の檻 2004年8月7日(日)
 文庫本1冊1340ページ、やっと読み終えた。京極堂シリーズ4作目である。
 作家関口は、山中で発見された書庫の鑑定を依頼された古本屋の京極堂に誘われて、妻ともども箱根奥湯本へ赴く。一方、京極堂の妹敦子は編集者の飯窪、カメラ担当の鳥口とともに、謎の寺明慧寺の取材のため、登山鉄道の駅からかなり歩いたところにある仙石楼という旅館を訪れていた。その仙石楼の中庭に突然僧侶の死体が現れる。「拙僧が殺めた」という声を聞いたという按摩の話。山中に出没する振袖の少女。飯窪が小学生の時起きた、友達の女の子の 家の火事と一家惨殺事件と友達の失踪。全く由来のわからない明慧寺。多くの謎の中、警察が捜査、監視する中で、次々と僧侶が殺されていく。
 もう一人のレギュラー探偵榎木津は人の過去を読むことができるという超能力を持っているが、「なんだ」とか「ばかばかしい」というようなことしか言わないので、あまり役に立たない。ただ、 読者としては消去法で犯人がわかってしまうのだけど。京極堂の仕事は事件の解決ではなくて、憑き物落とし。ただ、その過程で真相を明らかにしていくことになる。今回の作品は、禅に踏み込んでいるが、禅とともにフロイト的な要素がポイントだ。

絡新婦の理 2005年8月6日(土)
  鑿で女性を殺す連続目潰し魔の捜査に刑事木場が出動し、探偵榎木津のもとには行方不明の夫の捜索の依頼が。探し当てた女学校では連続絞殺魔が現れ、すべてが房総の名門織作家へ符合していく。そこは蜘蛛の巣館と呼ばれる奇怪な建物だった。キリスト教系の女学校での黒魔術に美少女、名門の美人姉妹 、奇怪な館というと、本格ミステリーおなじみのお膳立て。
 夏休み恒例の京極堂シリーズ。今回は1374ページだ。何せ人が多すぎる。 死者も多いし、犯人も多いし、探偵も多い。2つの連続殺人事件、実行犯とその関係者にあまり関係ない人、背後で操っている者、さらにその背後に隠れている真犯人。京極堂を中心とする探偵グループとその周辺の友人達。そして、その人々が皆どこかで交差し関連している。人物関係を図で表せばわかりやすくなるが、いまさらそんな気にもなれない。ただ、ミステリーとしては比較的シンプルでわかりやすかったかもしれない。

塗仏の宴 宴の支度 2006年8月8日(火)
 一つ一つの章はそれぞれの中で一つの謎解きは完結しているが、全体としては一つの大きな事件の前段に過ぎないので、各章の内容は全てネタバレである。
 「ぬっぺっぽう」:作家関口は編集者の妹尾から光保公平という男の不思議な話の取材を依頼される。戦前駐在所勤務した村が記録とともに消滅したというのだ。訪ねたら、村の名前も違うし、住んでいる村人も違っていた。光保によれば、村の中心の佐伯家では不死の生物「ぬっぺっぽう」を代々お守りしてきたのだそうだ。取材を始めた関口は、伊豆・韮山の駐在所の警官と、前を通りかかった堂島という郷土史家とともに、山中の村を訪れる。そして、ついに佐伯家と思われる屋敷を発見する。
 「うわん」:朱美(「凶骨の夢」の登場人物)は、沼津の砂浜で自殺しようとしていた村上という男を助ける。村上は自分でもわけがわからないといい、その後もなぜか自殺を図る。出身地熊野の知り合いが皆伊豆に住んでいるらしいので、探し歩いていたという。入院させた病院に「成仙道」という宗教団体が押しかけ、村上が禁呪に掛けられていると言い、祓ってみせる。そこへ、朱美が世話になっている薬売りの尾国という男が現れ、村上の自殺は「みちの教え修身会」という団体がかけた後催眠のせいだとからくりを見破る。
 「ひょうすべ」:関口は出版社で女性編集者加藤を紹介された。祖父が「みちの教え修身会」に入って以来、記憶が変わってしまったのだという。加藤自身は薬売りの尾国から霊媒師の華仙姑処女を紹介され、その占いどおり幼い娘を亡くしていた。 しかし、尾国に後催眠をかけられていたのは加藤のほうだった。
 「わいら」:京極堂の妹中禅寺敦子は、路地の奥に潜んでいる女性と出会う。その女性は危ないのは敦子のほうだという。追っていたのは、取材記事を書いた「韓流気道会」という武術団体だった。その女性は、霊媒師華仙姑処女だった。家にかくまったところを再び襲われるが、そこを助けたのは「条山房」という漢方薬局の通玄という男だった。華仙姑によれば、相談に来る人に会った途端話すことが決まっていて、話したことが真実になるのだという。敦子は探偵・榎木津に相談する。華仙姑は伊豆出身の佐伯布由で、尾国の催眠術にかかっていた。
 「しょうけら」:刑事木場は、三木春子という伊豆出身の女工の相談を受ける。自分の毎日の行動を全て記した手紙が送られてくるのだという。春子は「長寿延命講」という団体の教祖通玄から60日分の行動を指示され、守れないから高額な薬を買っているのだという。春子に手紙を送りつけていた工藤という男が、「長寿延命講」の日程表を盗んだ容疑で逮捕される。警察に協力したのは、藍童子という照魔の術を使う という霊感少年だった。
 「おとろし」:織作茜(「絡新婦の理」の登場人物)は家屋敷を売却しようとしている羽田から協力を依頼される。羽田が主催している徐福研究会を任せている東野という研究家が経歴を詐称していて、一方子供に譲った会社が雇ったコンサルタント「大斗風水塾」の南雲も同様に経歴を詐称しており、しかも二人とも伊豆の山中を資料館、新本社の建設地として推薦してきたのだ。茜は、下田で郷土史家堂島に会った後、何者かに殺害される。そして、関口がその犯人として逮捕される。
 郷土史家の堂島、薬売りで催眠術師の尾国、霊感少年、霊媒師、宗教団体が入り乱れて、消えた伊豆の戸人村の佐伯家を中心に関連しあっていて、織作茜の死を契機に、事件はこれから始まるのだろう。「本末転倒」という言葉がキーワードになるようだが。

塗仏の宴 宴の始末 2006年8月11日(金)
 刑事木場が姿を消し、部下の青木は三木春子を保護した目黒署の河原崎と探し始めるが、訪れた池袋の「猫目洞」で韓流気道会に襲われ、「条山房」の宮田に助けられる。一方、探偵榎木津にかくまわれていた中禅寺敦子と華仙姑乙女は何者かに拉致されてしまう。榎木津が後を追って留守の間、助手の益田の前に久遠寺医院の元医師で、尾国と藍童子に連れ去られた内藤という男を捜して欲しいという依頼があり、その直後羽田が訪れて「大斗風水塾」の南雲と「徐福研究会」の東野の確保を依頼される。そして、作家関口が織作茜殺害の容疑で逮捕されているという情報が中禅寺にもたらされる。しかし、中禅寺は動くなと言うばかりだった。
 伊豆韮山に「成仙道」の曹方士、「韓流気道会」の韓大人、「大斗風水塾」の南雲の指示を受けたヤクザが三すくみで対峙し、「みちの教え修道会」の磐田、「条山房(長寿延命講)」の通玄と通玄にかくまわれた華仙姑、「徐福研究会」の東野が消えた山村で一同に会し、中禅寺が憑物落しに立ち上がる。
 プレイヤーの多すぎる宝探しゲームと思って読んでいたし、消えた村の謎や織作茜の殺害もある程度推測できるようになっているが、登場人物の正体やその目的が明らかになるとあっと驚く。さらに、操っていた者が操られていて、だましていた者がだまされていた、という二重の本末転倒の真相と、陰の首謀者。「宴の支度」とあわせて2000ページほど、しかも字も細かい。大作でした。今回の作品は、妖怪の解説部分はさっと読み飛ばしたほうが良かったようだ。

陰摩羅鬼の瑕 2008年8月13日(水)
 小説家関口は、旧伯爵由良昂允の長野にある館にいた。伯爵は生まれてから成人するまで館の外へ出ることなく、館の無数の鳥の剥製に囲まれて、書斎の膨大な書物を読んで成長していた。関口は、探偵榎木津が発熱で一時的に失明したので、迎えに行くように頼まれたのだ。由良家では、二十三年前、十九年前、十五年前、そして八年前に、昂允の妻が婚礼の翌朝殺されるという事件が繰り返されていた。そして、今度小学校教師の薫子との婚礼を控えていて、その警護を依頼されていたのだった。刑事木場は退職した刑事伊庭を訪ねた。由良家の事件の防止のため、長野県警からかつて担当していた伊庭へ問い合わせがあったのだ。伊庭はこの事件で瑕を持っていた。そして、木場から住所を聞いて中禅寺を訪ねた。話を聞いた中禅寺は伊庭とともに長野へ向かう。
 夏休み恒例の京極堂シリーズ。今回は、 儒学とハイデッガーに関して長々と語られる。しかし、1200ページと分厚い割に、事件の数も登場人物も少なくて、シンプルで分かりやすかった。結末もほぼ予想通り。その動機は驚愕のものだが。

巷説百物語 2009年7月15日(水)
 激しい雨の中寺へ急ぐ僧侶の円海は、行者姿の男に雨宿りを誘われた。小屋の中には十人ほどいて、長い夜を百物語で過ごすことになる。おぎんという女が亡くなった姉の話をし、徳右衛門という男が殺された使用人の話をしていくと、円海の様子がみるみる変わっていった。
 御行姿の小股潜りの又市、山猫廻しのおぎん、事触れの治平、そしてわけもわからずかかわってしまった、百物語本を書こうとしている戯作者志望、考物の百介たちが、妖怪譚になぞらえて公に裁くことのできない罪人を闇に葬る、いわば妖怪版必殺もの。
 「小豆洗い」、「白蔵主」、「舞首」、「芝右衛門狸」、「塩の長司」、「柳女」、「帷子辻」の7編。ただ罪を暴くというだけではなく、「舞首」の三すくみとか、「塩の長司」のなり代わりとか、その裏の事情や仕掛けが複雑でおもしろい。

邪魅の雫 2012年9月8日(土)
 探偵榎木津の縁談が福山家、宇津木家、来宮家と次々断られて、来宮家では妹が大磯で毒殺されたという。探偵の弟子益田は親戚から調査を依頼される。江戸川河川敷では商社社員の死体が発見され、同じ青酸化合物による殺害ということで、大磯の事件と連続事件とされ、公安まで乗り出してきた。そして、平塚のアパートで真壁恵という女性が毒死していた。この女性は、身元が不明で真壁恵から紹介されて真壁を名乗って住んでいたらしい。画家西田は宇津木実菜という女性をモデルに雇っていたが、ここ数日姿を見せない。彼女は見知らぬ男に付き纏われていた。そして、次々と容疑者が殺されていく。
 相変わらず登場人物も事件も多いので、ある程度メモをまとめながら読んだので、人物関係はある程度把握できたし、結末も予想できた。夏休みの定番ミステリー5弾目だった。

覗き小平次 2014年7月19日(土)
 大根役者の小平次は自分が希薄になるのが心地よく微昏がりを好み、押入れに閉じこもって妻のお塚を見つめている。ある日、囃子方の多九郎が訪ねてきて、奥州津軽の興行での幽霊役者としての仕事を持ち込んだ。小平次の幽霊役が評判を呼び興行は成功するが、帰途小平次は殺され、幽霊になって江戸に戻ってきた。
 絵に描かれた美少年に焦がれて長者の家を出た女。困窮する武士の子で、男娼に売られ女形になった男。両親を切り殺し、以来人を切り続けている男。長年盗賊の手引き役をしてきた男。さまざま人間たちの闇が交錯する群像劇ともいえるだろう。ミステリー的などんでん返しもあっておもしろかった。山本周五郎賞受賞作。