栗田有起

ハミザベス お縫い子テルミー    

ハミザベス 2005年8月12日(金)
 「ハミザベス」:死んだものだと思っていた父の死をはたちの誕生日の前に知らされ、遺産として母は現金、まちるはマンションをもらうことになった。遺言の執行人はあかつきさんという同い年の女性。彼女からハムスターを預かり、ハミザベスと名付け、マンションで一緒に暮らすことになる。まちるは虚弱体質で、いまだに初潮がない。 そんなまちるを心配して、おさななじみの彰が訪ねてきたりする。すばる文学賞受賞作。
 「豆姉妹」:末美は16歳の女子高生。丸顔でそっくりな姉と一緒に暮らしている。その姉が看護士をやめてSM女王に転職するという。そんな二人のところに、母の再婚相手の息子良太が転がり込む。なぜかオネエ言葉になっていた。末美は学校の帰り、なんとなく美容院に入って、なぜか「アフロにしてください」と言ってしまった。
  どちらの作品も、描かれるのはどこかに異常性を持って、それでいて素直で優しい人たち。何か物語があるようで、かといってなんということもなく終わる。平凡で単純な言葉だけなのに、心にすっと入ってくる文章。 「空の広さは目にあまるものがあり、視界に納まりきらない。見つめようとすると、今自分がどこを見つめているのかわからなくなる。空には中心がない。窓枠がなかったら、どこに焦点を合わせればいいのか、本当にわからない。」会話もボケていておもしろい。感じのいい作品だ。

お縫い子テルミー 2006年9月5日( 火)
 テルミー、鈴木照美は一年前、十五になったばかりで、南の島を出て東京へ出てきた。島では祖母、母の3人で人の家に居候し、裁縫と家の手伝いをして、小学校へも行かずに暮らしてきた。右手に生活道具、左手に裁縫道具の入ったバッグを持って、歌舞伎町を目指し、キャバレーで働くことにする。その店で歌に命をかけているシナイちゃんと知り合う。シナイちゃんの家に居候し、シナイちゃんのために作ったドレスが気に入られ、裁縫のお客さんを紹介されるようになった。テルミーはシナイちゃんを好きになるが、シナイちゃんが思いを寄せるのは歌だけだ。テルミーはシナイちゃんの部屋を出て、仕立てのお客さんの家に居候するという生活を始めた。
 「でもここにいるしかない。目の前の光景と自分自身を、はっきり意識しなくてはいけない。私は、ここにいる。そして、今まで逃げていたことから、もう、逃げ切れないのを思い知らされている。」「ガウチョの歌を口ずさむ。草原のカウボーイ。彼らは牛を追っている。私が追うものはなんだろう。空に聞く。空中に耳を澄ませる。」単純な短い文の連なりに、リズムとイメージの広がりがある。
 「ABARE・DAICO」は、チビの小学五年生、小松誠二のひと夏の物語。背が高くてカッコイイ水尾和良との友情、なくした体操着を買うために始めた留守番のバイト、怪しげな雇い主、下着ドロボー疑惑、家を出ている父と母のこと。家事万端できちゃう小学生とか、ありがちな夏休みの成長物語かもしれないが、おもしろかった。