倉知淳

壺中の天国 星降り山荘の殺人    

壺中の天国 2005年3月15日(火)
 関東のごく平凡なベッドタウン稲岡市で連続通り魔殺人事件が起こる。そして犯行声明のような「電波系」の怪文書がばらまかれる。知子は30歳の未婚の母、公務員の父と10歳の娘美歩と3人で暮らし、発明好きの店主のクリーニング店で配達の仕事をしている。事件は主に彼女の視点から描かれている。通常本格ミステリーは、登場人物の誰かが犯人なのだが、この作品ではどうもそうではないようだし、誰が探偵役なのかもわからない。美歩が通っている美術教室で教えている元同級生の正太郎、以前下宿していて現在は代議士の広報紙の 記者をしている水島とか。
 章立てもなく、知子を中心にしたストーリーと、事件が起こると被害者のプロフィールと殺害にいたるまでの行動、電波系の怪文書、そして「犯人」とおぼしきフィギュア制作オタクの独白が交互に繰り返される。傑作なのは、被害者を描いた部分。占いにはまった女子高生、摂食障害で引きこもりの若い女性、投稿マニアの中年主婦、少しぼけの入った健康オタクの老人。特に投稿マニアとボケ老人が最高。
 犯人が必ず顔を出しているはずだと何度か読み返したがわからず、ねたが明かされてから読み返すと確かにそうなっている。おもしろかった。最高に笑えた。本格ミステリ大賞受賞作。

星降り山荘の殺人 2008年3月13日( 木)
 広告代理店に勤める杉下和夫は、上司を突き飛ばしたことから制作部からカルチャークリエイティブ部という芸能部門に異動させられる。そこでマネージャー見習いをすることになったのは、スターウォッチャーという肩書で女性に人気の星園詩郎という美男子だった。星園との最初の仕事は、秩父の山中にあるオートキャンプ場の宣伝のため、一泊して雰囲気を味わうということだった。同宿したのは、開発業者の社長岩岸、部下の財野、作家の草吹あかね、その秘書でテレビ局で星園に会う前にぶつかった麻子、UFO研究家の嵯峨島、そして岩岸に 付いて来た女子大生のユミと美樹子だった。夕食を終え、財野と杉下は管理棟に残り、他の客はそれぞれ外のコテージへ移った。翌朝、岩岸が管理棟に現れず、財野が呼びに行くと殺されていた。電話は通じていず、途中の道は雪崩でふさがれ、天候が悪化して救助が来る見込みもなかった。そして外部から人が侵入した形跡もなかった。閉ざされた吹雪の山荘で、次の殺人が起こる。
 ところどころ囲いの注釈があり、「主人公は語り手であり…事件の犯人では有り得ない」、「探偵役が登場する…探偵役が…事件の犯人では有り得ない」、「重要な伏線がいくつか張られている…」などとヒントが書いてある。そして、裏表紙には「あくまでもフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編推理。」と書いてある。何から何まで冗談だ。確かに、読み返すとどこにも嘘は書いてはいない。ひっかけはおもしろいが、推理ドラマの中身自体はあまり意味がない。