熊谷達也

ウェンカムイの爪 邂逅の森    

ウェンカムイの爪 2004年7月21日(水)
 会社勤めを辞めて動物写真家で生きていこうとしている吉本は、北海道で撮影中旅行中ヒグマに遭遇する。だめだと観念した瞬間、威嚇する声が聞こえ、一人の女性が現れ、ヒグマを操るように追い払った。その後、雑誌社の依頼で北大によるヒグマのテレメトリー調査を取材することになり、調査本部を訪れると、指導する先生というのはあの時の女性そっくりだった・・・。
 テレメトリー調査というのは、ヒグマを檻で捕獲し、麻酔をかけて発信機を取り付けて放し、その移動状況を追跡するというもの。作業は順調に進んでいたのだが、テレビ局の取材のせいでトラブルが発生し、そしてあの時の女性、北大の講師小山田玲子の謎も明かされていく。作品の中で自然や生態系と人間の問題についても触れているが、どちらかといえば手に汗握る冒険小説という感じだ。相手がヒグマだけに映画化は難しいだろうが。
 やはり、買ってきた本をあいうえお順に並べて読んでいるだけなのだが、たまたま、作者の直木賞受賞とタイミングが合ってしまった。この作品はデビュー作で、小説すばる新人賞受賞作。

邂逅の森 2007年2月4日(日)
 富治は、秋田の阿仁の山間の集落打当のマタギだ。夏場は小作農や杣夫として働き、冬場は山形の肘折温泉を拠点として、寒マタギを旅マタギとして過ごした。アメ流しという川での漁の日、文枝という地主の娘に目を奪われ、夜這いをしてお互い恋に落ちるが、子供ができたことが父の地主に知られ、文枝との駆け落ちもかなわず、阿仁鉱山へ追いやられる。三年三ヶ月と十日間の年季が明け、山形県の大鳥鉱山へ移るように親分から言い渡される。大鳥鉱山で弟分になった小太郎は、休みの日密かに熊狩りをしていた。それを見て、富治の中で抑え込んでいたマタギの血が沸騰しはじめた。
 山の神様を信じて生きるマタギの山での厳しい掟、鉱山で生きる鉱夫たちのしきたり、秋田や山形の寒村に生きる人々の暮らしが生々しく伝わってくる。「ウェンカムイの爪」はどちらかといえば単なる冒険活劇という感じだったが、この作品では大正から昭和に時代を置いたことや小太郎の姉イクとのよそ者としての生活を描いたこともあって、日本の自然や風土、人間の営みの重さが感じられた。直木賞、山本周五郎賞受賞作。