鯨統一郎

隕石誘拐 宮沢賢治の迷宮    

隕石誘拐 宮沢賢治の迷宮 2006年3月21日(火)
 中瀬研二は脱サラしてアルバイトをしながら童話を書いている。妻の稔美は生活費を補うため、パソコンの仕事をしながら倹約に努めている。そんな平凡な貧しい家庭の主婦稔美と息子の虹野が誘拐された。稔美の父は宮沢賢治の研究家で、鉱物にも造詣の深かった賢治が発見した七色のダイヤモンドの隠し場所を稔美の記憶に植えつけたのだという。誘拐したのは世界平和を目指すという怪しげなグループ。研二は、童話創作教室の同僚で宮沢賢治に詳しい白鳥まゆみや学生時代の友人の協力を得て、ダイヤモンドを奪いに現れるはずの犯人に先回りするため、賢治の作品からダイヤモンドの隠し場所を探ろうとする。
 賢治の作品や生涯の現実の上にレインボー・ダイヤモンドという虚構を築き上げているのがおもしろいのだが、稔美の潜在意識が又三郎として登場したり、ダイヤモンドの場所や稔美の居場所をたやすく突き止めていく過程は、ミステリーとしてはどうかと思う。登場人物のキャラクターとか、読物としておもしろいのはもちろんだが。