窪美澄

ふがいない僕は空を見た 晴天の迷いクジラ    

                                    
ふがいない僕は空を見た 2012年12月20日(木)
 高校生の斉藤は、アニメオタクの主婦あんずとにナンパされ、コスプレ衣装でセックスしている。同じ高校の好きな松永に告白されあんずと別れたが、その後であんずに恋していることに気づく。あんずは何をやってもうまくできず、学校でも会社でいじめられてきたが、会社近くの定食屋で見かけていたという慶一郎にプロポーズされて気楽な専業主婦になる。だが、子供ができず、姑に不妊治療を強くすすめられていた。松永は夏休みが終わるまでに斉藤とセックスするはずだったが、斉藤がアルバイトに出なくなり、メールにも返信がなくなった。松永の兄はT大に合格したが、宗教団体の施設に入って、今は引きこもり状態になっていた。斉藤の友人福田は、母親が家を出て、アルバイトをしながら貧しい団地で認知症の祖母と暮らしていた。斉藤のコスプレセックスの写真がネットに出回り、斉藤はベッドにこもってしまう。
 前の章の登場人物の一人が、次の章の語り手になるという形式の連作長編。最初の「ミクマリ」はR−18文学賞大賞受賞作で、ただのヤングアダルト小説という感じだが、章が進むにつれて、社会の縮図が表れてきておもしろくなる。うまいなとは思う。ただ、あれもこれもと盛り込みすぎのような気もする。山本周五郎賞受賞作。
                                    
晴天の迷いクジラ 2014年9月24日(水)
 つぶれそうな会社で仕事に追われ、専門学校時代からの恋人に振られ、うつになった若いデザイナーの由人。そのデザイン会社の社長で、18歳で絵の先生の子供ができて結婚したものの、育児ノイローゼで子供を捨てて東京へ逃げてきた過去を持つ野乃花。由人が会社へ荷物を取りに行くと、野乃花が練炭自殺しようとしていた。由人もうつの薬を酒で飲んでもうろうとしていたが、テレビのニュースで南の地方の湾にクジラが迷い込んだニュースを見て、一緒に見に行こうと誘った。女子高生の正子には幼くして感染症で亡くなった姉がいて、母親から毎日の記録をつけるように言われ細かく監視されて育ってきたが、同じ転校生の海老君、その双子の姉で骨癌で家にいる忍と知り合い、初めて母親に逆らう。忍が亡くなり、母親の監視がさらに厳しくなり引きこもるようになった正子は、ある日外へ出ていく。自殺しそうに歩いている正子を野乃花は拾う。クジラが迷い込んで湾は、野乃花の故郷だった。
 生きていく希望のない三人が、クジラ騒動の中で親子を装い、それぞれ希望を見出していく。山田風太郎賞受賞作。