小杉健治 |
絆 | 土俵を走る殺意 |
絆 2016年8月12日(金) |
私は『夫殺し』事件の裁判の傍聴席に、記者として腰をおろしていた。被告人の奈緒子はかつて私のあこがれの女性で、障害のある弟とは仲が良かった。奈緒子は検察の起訴状を全面的に認めたが、弁護人の原島弁護士は無実を主張した。奈緒子の不倫をきっかけに夫が愛人を作り、離婚を迫っていたというのが動機とされた。 法廷ミステリーで、真相は証人への尋問によって明らかになっていく。弁護側は最初から真相をつきとめていたが、被告がその暴露を望まないことが問題だった。日本推理作家協会賞受賞作。 |
土俵を走る殺意 2016年11月18日(金) |
昭和四十二年、両国回向院で、秋田の中学校の校長だった横井という男の死体が発見された。現場では若い大男が目撃されていた。一方、大相撲では大関大龍が横綱推挙を辞退するという前代未聞の出来事が起こっていた。大龍は、横井と同じ秋田の谷里町出身だった。大龍が中学生、篠田大輔だった頃、警視庁を退職した村尾は、大輔が見せた相撲の技に、昭和三十三年に起こった誘拐殺人事件の容疑者である初代大龍の面影を見た。村尾はその容疑者倉吉をおびき出すため、大輔を相撲部屋に入れようとした。 高度成長時代の集団就職、山谷の労務者といった社会背景に、親子の思い、一緒に上京した同級生同士の愛憎を絡めて、おもしろいミステリーだった。ラストのどんでん返しもなるほどという感じだ。吉川英治文学新人賞受賞作。 |