近藤史恵

アンハッピードッグズ 凍える島 サクリファイス 震える教室

アンハッピードッグズ 2004年5月18日(火)
 真緒と岳は幼稚園からの幼なじみで、何度も付きあったり別れたりしていて、その間お互い他の異性と付き合ったりもしていた、いわば腐れ縁。パリへ発ってホテルで働くようになった岳に「犬の世話のため」と呼ばれて、今は一緒にパリで暮らしている。そんなある日、岳が若い日本人のカップルを連れてくる。新婚旅行で着いたばかりの空港でバッグを置き引きされたのだという。そこで4人の生活が始まるが、ベルサイユ宮殿へ観光に出かけたときはぐれてしまい、真緒とカップルの男性は一緒に先に帰り、後で岳とカップルの女性が帰ってくる。新婚カップル間にいさかいが起こり、後はまあ想像通りの展開。と言ってしまうと つまらない話だが、真緒の屈折した心理やパリジャンっぽい生活の描写が作品に陰影を与えている。最後のどんでん返しは、やはりミステリー作家ならではかなという感じ。

凍える島 2008年7月2日(水)
 なつめは、喫茶店「北斎屋」を一緒に経営しているなつこと、常連客椋くんに誘われて、瀬戸内海の孤島へ慰安旅行へ行くことになった。一行は、同じく常連のうさぎくんとその彼女静香と友人の守田氏、そしてなつめの不倫相手の矢島鳥呼と妻の奈奈子。島の建物は集団自殺した宗教団体の教会だった。そして最初の朝、奈奈子が鍵のかかった密室で惨殺されているのが見つかった。凶器はなつめの部屋にある茶室に飾ってある日本刀だった。椋さんは犯人に挑戦するため、ボートの鍵を崖の上から捨ててしまった。こうして、絶海の孤島で仲間しかいない中で連続殺人が起こる。
 一種の叙述トリックと言えるだろう。最初の事件のアリバイ状況から犯人はある程度明らかだが、なつめが語り手なのでそこが表面に出てこない。意味ありげなプロローグから人物関係を再構築しようとするが、実はこれは何の関係もない。最後は語り手であるなつめが心神耗弱状態になってしまうのだから、どうしようもない。この辺がどんでん返しを導く新しい仕掛けと言えば言えるだろう。ただ、雰囲気のある作品ではある。鮎川哲也賞受賞作。

サクリファイス 2010年6月15日(火)
 白石誓は、インターハイで1位になった陸上の中長距離選手だったが、走ることは苦痛でしかなかった。そんな時自転車レースの世界を知り、大学で自転車を始めて、卒業するとメーカーのチームにスカウトされた。チームのエースは峠を得意とするクライマーで日本を代表する自転車選手の石尾、白石と同期の伊庭も平坦での瞬発力の強いスプリンターでチームの2番手となっていた。白石と伊庭はツール・ド・ジャポンの出場選手に選ばれ、アタック役を任された第3戦で白石は逃げ切って勝ってしまった。しかも、レース中ヨーロッパのチームが若い日本人選手をスカウトしようとしているという話を聞く。次のレースの朝、チームの先輩から、気をつけろ、石尾さんを怒らせると怖い、三年前も強い新人をクラッシュさせて下半身不随にしてしまったと言われた。
 自転車ロードレースを舞台にしたミステリー。 ツール・ド・ジャポンで石尾は総合優勝し、白石、伊庭も好成績を上げ、ヨーロッパのレースへ参加することになり、白石のかつての恋人も取材記者としてやってきた。そして、そこで惨劇が起こった。おもしろかった。 ミステリーとしても二転三転するし、ツール・ド・フランスなんかで何やっているんだろうと不思議に思っていた競技の事情も少しはわかった。大藪春彦賞受賞作。

震える教室 2020年5月4日(月)
 秋月真矢は、骨折とインフルエンザのせいで受験に失敗して、音痴なのに音楽とバレエで有名な凰西学園 へ入学した。始業式を終えて教室に向かうと小柄な女の子に袖をつかまれた。この学校が怖いのだという。相原花音の母は作家で、ネタ探しを頼まれていた。二人で出るという噂のあるピアノ練習室へ行って、手をつないで中に入ると…。
 「ピアノ室の怪」、「いざなう手」、「捨てないで」、「屋上の天使」、「隣のベッドで眠る人」、「水に集う」の6話。学園ホラーミステリーだが、悪霊退散というわけではなく、怪奇現象の裏にある事実を知り、霊はそのままそこにいてもらうという趣向。霊に恨みを与えた人物は結局罰を受けるのだが。おもしろかった。