小手鞠るい

欲しいのは、あなただけ      

欲しいのは、あなただけ 2008年11月16日(日)
 「むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんな私よりも年下なのだ。彼らは年を取らない。永遠に年下のまま成長を止めて、私の胸の中で生き続ける。」「大人になってから、わたしを夢中にさせたのは、心逝くまで好きな人を思い、その思いを生きる、ということだった。遠い昔に、わたしはそれを生きた。そして今も生きている。地の果てで、独りぼっちの不完全な死体として。」
 最初と最後の文章。かもめが十九のとき夢中になった人は、「男らしい人」。そして、子供のいる夫と結婚して再就職した職場で、奥さんとふたりの子どもがいる「優しい人」と知り合う。カモメの思いは、あなたそのものが欲しいということ 。「男らしい人」は実は結婚願望男で、「優しい人」は不倫願望男でしかないのだが、幻に恋しているのだから最初からすれ違っている。男性として 冷めて見るせいかもしれないが、純粋な恋というよりはパラノイアという感じで、あまり読後感は良くなかった。島清恋愛文学賞受賞作。