木崎みつ子

コンジュジ      

コンジュジ 2024年3月19日( 火)
 二十年前、十一歳のせれなはリアンに恋をした。せれなの父は、仕事を解雇されたとき、母に逃げられたときの、二度手首を切っている弱い人だった。その後働き出して、ベラさんという女性を連れてきた。留守番をしていたある夜、テレビで見た写真を見た瞬間、せれなの頭の中で鐘が鳴った。「The Cups」というバンドの三十一歳で亡くなったリアン・ノートンの特集番組だった。CDを買い、本屋でポスター付きの雑誌を買い、図書室で本を探して読んだ。ベラさんが出て行き、せれなの胸が膨らむようになると、父が変な目で見たり触ったりするようになった。父に押し倒されて、「リアン、ヘルプミー!」と言うとリアンが現れて逃げ出すことができた。それから、せれなはリアンと一緒にツアーに同行し、一緒に暮らすようになった。
 父に性的虐待を受けて、恋したすでに亡くなっているロックスターとの妄想に救われて生きてきた少女の凄絶な物語。すばる文学賞受賞作、芥川賞候補作。 どうでもいいが、バンドに兄弟二人というから「オアシス」のイメージかと思ったが、70年代だから「クイーン」のイメージなのかもしれない。それと、作品の中の現在が、書かれた年の7年前というのもどこか謎だ。