貴志祐介

黒い家 硝子のハンマー    

黒い家 2005年9月26日(月)
 「保険金いうのは、自殺した時でも出ますんか?」という問い合わせが、若槻慎二の恐怖体験の始まりだった。後日苦情の電話があり、なぜか若槻が指名されてその家を訪れる。そこは、我慢できない異臭にあふれる黒い家だった。その顧客菰田重徳に言われて襖を開けると、子供が首を吊って死んでいた。不審に思った若槻は独自に調査をするが、菰田は毎日会社にやってきて保険金を催促する。結局保険金が下りて解決するのだが、次は妻の幸子が被害に会うのではないかと心配した余計 なお節介が、本当の惨劇の始まりとなる。ここで、現実の有名な事件を思い出すと、そういうことかとミステリー的には興味が薄れる。しかし、この作品はホラー小説大賞受賞作。
 この後、ジェイソン的なホラーシーンが連続するが、本当に怖いのは、昆虫の捕食を例にして訴えている人間のモラルハザードのほうかもしれない。事実、あの有名な事件が起こったのは、この作品が発表された翌年なのだ。新刊で読んだ人は、一年後本当の恐怖を経験したに違いない。

硝子のハンマー 2008年1月31日( 木)
 六本木のオフィスビルの最上階の1室で人が倒れているのを、窓ふきの青年が発見した。介護サービス会社の社長で、頭部を打撲されて死んでいた。 株式上場を間近に控えて、社長、副社長、専務が介護ザルと介護ロボットのデモンストレーションのため日曜出社していた。その12階は、エレベーターを止める のに暗証番号が必要で、社長室の前の廊下には監視カメラが設置され、窓ははめ殺しの防弾ガラスで、外部からは誰も社長室に入っていなかった。事件当時 副社長室、社長室につながる専務室で昼寝していた久永専務が唯一の容疑者として逮捕された。弁護を担当した青砥純子は、防犯コンサルタントの榎本径を訪ねて調査を依頼する。 榎本は防犯ショップを経営していたが、裏の顔は泥棒だった。
 前半は榎本と青砥の調査と推理、そして後半は真犯人の視点から倒叙形式で犯行が明らかにされる。セキュリティとは破られるためにあると思えてしまう、犯行に至るまでの準備と空前絶後と言っていい密室トリックの犯行の真相。探偵が正真正銘の現役の泥棒というのがちょっと引っかかるが、おもしろかった。タイトルがすべてを表しているといってもいい。日本推理作家協会賞受賞作。