川崎草志

長い腕      

長い腕 2007年8月26日(日)
 埼玉新都心のゲーム 制作会社に勤める原汐路は、退職を目前にしたある夜、別プロジェクトの同僚二人がビルから転落死した現場を目撃する。それは、幼い頃父が母を崖から突き落とそうとして二人転落死した過去の記憶を呼び覚ました。汐路は、故郷の愛媛県早瀬町に住む姉の明奈からの電話で、松山空港でパニックで三十人以上が死んだこと、従姉の西英子のクラスの女の子がクラスメートを猟銃で射殺したという事件を知る。ネットで事件について調べた汐路は、射殺事件の加害者の少女と転落死した同僚木崎が同じアニメのキャラクター人形「ケイジロウ」を持っていたことに気がつく。退職した汐路は、早瀬町の実家に帰り、事件について調べ始める。原家と西家は早瀬町の名家で、広大な屋敷はともに明治後期の名匠近江敬次郎によって造られたものだった。
 ゲーム会社の最先端のVRやネットの世界と、横溝正史的な地方の旧家や地元に伝わる伝説の世界の対比が おもしろい。勤め先に2年と持たず、必要最小限に荷物で生活するヒロインもユニークで行動的で魅力的。 ただ、誰が本当に怖いのかと考えると、ホラーっぽくて後味の悪い感じもする。横溝正史ミステリ大賞受賞作。