川上未映子

乳と卵 ヘヴン    

乳と卵 2010年10月20日(水)
 大阪から姉の巻子が子供の緑子を連れてやってきて、私のアパートで3日間過ごすことになった。巻子は場末のホステスをやっていて、豊胸手術を受け受けたいのだという。緑子は口をきかなくなって、小ノートにペンで書いて伝え、大きいほうのノートには何か書きこんでいる。
 なぜか豊胸にこだわる巻子に、生理や出産への嫌悪感をノートにつづる緑子。実は、二人だけで暮らす母子の葛藤を描いたものだった。関西弁の長回しの文体は、野坂昭如流。芥川賞受賞作。

ヘヴン 2012年7月25日(水)
 《僕》は斜視のせいで中学校で苛めにあっていた。その中心にいたのは二ノ宮という、スポーツも成績も顔つきも優れたクラスの中心的な存在だった。ある日、ふで箱をあけると〈わたしたちは仲間です〉と書かれて紙が入っていた。その後手紙がぽつぽつと届くようになった。会いたいです、という手紙が届いて、その公園へ行くと、待っていたのはコジマという家が貧乏で不潔だということでクラスの女子から苛められている生徒だった。コジマは別れた父親と一緒に暮らしていたというしるし、美しい弱さのしるしとして汚くしているのだと言い、《僕》の目は生まれつきのしるしなのだと言う。 しるしを守るため苛められ、それを受けれていると。苛めている百瀬は、意味なんかない、正しいとか関係ない、ただしたいことをしているだけだと言う。
 コジマが連れていきたいという「ヘヴン」は、シャガールの絵だろうか。かたくなではあるが、魅力のある少女だ。そして、《僕》は自分の選択をすることになる。芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞作。