加藤幸子

池辺の棲家      

池辺の棲家 2007年10月10日( 水)
 千亜子は、池のほとりの小さな家でひとり暮らしている。五年前に定年退職した夫は、実母の介護のため実家へ帰っている。翻訳の仕事をしながら、窓辺にやってくる鴉のクロウと語らってキャットフーヅをあげたり、夫に頼まれて池にやってくる野鳥を観察したり、図書館で朗読のボランティアをしたりする毎日。年末夫が帰って、正月に娘が孫娘を連れてやってきたり、年に一度学生時代の友人たちと花見をしたり、豊かな自然の中で繊細で穏やかな時間が流れていく。千亜子の胸には三年前ペースメーカーが埋め込まれていて、高校生だった息子は二十年以上前「皮膚呼吸ができなくなりました」と書き残して山へ消えていた。
 「夢の壁」で芥川賞を受賞している作家だが、作品を読むのは初めて。人々との穏やかな交流、そして自然との幻想的な共感が印象的。