鹿島田真希

二匹 六○○○度の愛 冥土めぐり  

二匹 2006年4月27日(木)
 明と純一は幼馴染みの高校生で同じクラス。明はクラスでの印象は悪いが、純一は人気者だ。それは彼が何かが優れているからではなくて、日常のことがほとんどできないからだ。純一は狂犬病にかかっていて保健所へ送られることを望んでいる。そのうち明にも狂犬病が伝染して、明も日常のことができなくなっていく。
 ストーリーを追ってもあまり意味がなく、「二匹」の落ちこぼれ高校生の意味不明の言葉のやり取りがすべて。登場人物や出来事も明の妄想かもしれないと思えてきたりする。ところどころ、社会批評めいたことが書いてあるが、それは登場人物(明)の視点ではなく作者の視点だ。だからと言って作者が何か言いたいことがあって書いているわけでもない。おもしろいかといえば、別におもしろくもない。読んでいて、最近のシュールな作風の「中学生日記」を連想した。最近こんな感じが流行なのだろうか。文藝賞受賞作。

六〇〇〇度の愛 2009年10月18日(日)
 団地に夫と子供と暮らしている女が、非常ベルの音をきっかけに、突然一人家を出て長崎へ旅立つ。脳裏には広がっていくキノコ雲があった。ホテルでロシア人との混血の青年と出会い、抱き合う。女は幼い頃から物書きになりたいと思っていた。そして、自殺した兄への思い、その兄を溺愛した母との確執を心に抱えていた。
 ロシア正教、長崎といったイメージや青年との関係に、兄と女の存在を重ね合わせていく、ヌーボーロマン風な作品。解説によれば、マルグリット・デュラスの「ヒロシマ、私の恋人」を下敷きにしているらしい。三島由紀夫賞受賞作。

冥土めぐり 2015年4月5日(日)
 奈津子は、町内の掲示板に区の保養所宿泊割引のポスターを見つけた。それは幼い時両親と弟と出かけた高級リゾートホテルだった。勤めを辞めてカードで豪華な食事をして借金を重ねる兄と、父が急死し兄の借金でマンションを手放しても豊かだった生活を忘れられない母の呪縛に苦しみ、夫は結婚してすぐ脳の障害で働けなくなっていた。体の不自由な夫を連れて、思い出の保養所を訪ねる旅は、奈津子の冥土めぐりだった。
 芥川賞受賞作。多分に私生活が反映されていて、これまでの前衛的な作風とは大きく異なっている。
 「99の接吻」はいわゆる谷根千で暮らす母と四姉妹の物語。少し浮世離れしていておもしろかった。