笠井潔

オイディプス症候群      

オイディプス症候群 2009年9月27日 (日)
 アフリカ大陸中央部で発見された謎の感染症。パリ大学の学生ナディア・モガールは、病に倒れた友人の研究者に頼まれ、書類をアテネにいる共同研究者のマドック博士へ届けることになる。日本語を教えてもらっている矢吹駆を伴ってアテネへ向かったが、連絡担当者にクレタ島へ向かうよう言われる。駆とはぐれたナディアは、旧友のコンスタンと出会い、クレタ島へ飛ぶが、そこでディーダラスという男の墜死事件に遭遇する。マドック博士と連絡をとると沖に浮かぶ牛首島という島へ来るように言われる。島はアメリカの血液製剤会社バイオクロス社のポール・アリグザンダーの所有で、ダイダロス館という風変わりな建物には、医療関係者のほか、哲学者、政治家、小説家など多彩な人物が集められていた。そして、嵐の中電話線が切れ、船が流されて閉ざされた孤島となった舞台で、一人目の死体が発見された。
 いわゆる「嵐の孤島もの」だが、文庫500ページ上下巻の大作。その半分は、駆など登場人物が繰り広げる現象学論議やエーゲ文明、ギリシャ神話のうんちく。駆の推理思考方法論や見立て殺人が絡んでくるからある程度はしょうがないとは思うが。舞台設定や人物設定や次々と重なる謎はおもしろかった。本格ミステリ大賞受賞作。