金原ひとみ

蛇にピアス マザーズ アンソーシャル ディスタンス  

蛇にピアス 2006年8月30日(水)
 クラブで知り合ったアマは「スプリットタン」といって、舌の先が割れていた。身体改造に引きつけられたルイはアマと一緒に彫り師のシバさんの店を訪れ、舌に穴を開けてもらい、アマの龍とシバさんの麒麟の刺青を入れてもらうことにする。ルイはアマと知り合ってからはアマの部屋で暮らしている。アマはふだんはヘラヘラした男だが、ある夜ルイが暴力団風の男に絡まれると凶暴に叩きのめしてしまう。刺青にとりかかると、費用代わりということでルイはシバさんと関係してしまう。シバさんはサディストだった。新聞で殺人事件の記事を見つけ、舌のピアスは次第に大きくなっていき、刺青が完成し、ルイは酒しか口にしなくなっていく。そして、ある日アマが帰らなくなる。
 ピアスとか刺青とか、アンダーグランドな世界の風俗が描かれていて、どんな小説なんだろうと思いながら読み進めていたが、ちょっとミステリーっぽい展開もある恋愛小説という感じでおもしろかった。ルイという女の子、ピュアなのかタフなのかよくわからないところもおもしろい。話題の芥川賞受賞作。

マザーズ 2013年4月13日(日)
 同じ認可外保育所に子供を預ける三人の母。小説家のユカは、夫が家を出て週末だけの夫婦となり、摂食障害に苦しみ、ドラッグに溺れている。ユカと高校時代友人だった涼子は、夫が育児を手伝わず、育児ノイローゼになり、虐待してしまいそうな不安を抱えていた。モデルの五月は、経営する店が経営危機の夫との仲が冷えて、不倫をしていて妊娠してしまう。三人で食事をして、育児や夫婦関係や仕事の話をするようになるが、それぞれ破綻に進んでいく。
 ストーリー以上に強烈な作品だ。この作家の才能は評価したい。ドゥマゴ文学賞受賞作。

アンソーシャル ディスタンス 2024年4月30日(火)
 付き合っているイケメンのバンドマンが鬱状態になり、そのころから酒量が増え、朝ストロングゼロを飲んで出かけ、帰りコンビニに寄って飲み、ついにはアイスコーヒーの容器に入れて会社でも飲むようになる。(「Strong zero」)年下の部下と付き合い始めて、顔に出る年齢が気になって次々と美容整形を積み重ねる。(「Debugger」)夫との関係が冷えて付き合い始めた男との関係がこじれ、次は友人の弟と関係を持つようになるとそのしつこさがこたえる。(「Conscientia」)子供のころから自殺願望があり、何事も受け身な彼と共通の押しのバンドのライブがコロナで中止になり、心中を持ちかける。(「Unsocial Distance」)激辛を食べてセックスを堪能するということで結びついた彼をコロナの自粛がきっかけで遠ざけてしまい、在宅勤務で激辛とオナニーにおぼれていく。(「Technobreak」)
 あまりに醜悪ですぐやめて捨てようかと思ったが、なんとか最後まで読んだ。主人公の女性はどちらかと言えばメンタルが強くて仕事もできるのだが、なぜか男とセックスに絡め取れれてしまう。若い人なら共感できるのかもしれない。谷崎潤一郎賞受賞作。