垣根涼介

午前三時のルースター ワイルド・ソウル 君たちに明日はない  

午前三時のルースター 2005年2月28日(月)
 旅行代理店に勤める長瀬は、顧客の宝飾会社社長の中西から孫の慎一郎のベトナム旅行への添乗を依頼される。慎一郎の父親は数年前ベトナムで消息を絶ち、志望したものとして処理されていた。実は、慎一郎はテレビのベトナムの市場風景に映った人物が父に違いないと信じ、行方を捜そうとしていた。
 長瀬と慎一郎、それに長瀬の友人の源内、それに現地で雇ったタクシー運転手のビエンとガイドに雇った娼婦のメイによるRPGのような捜索が始まるが、長瀬たちのことがどうしてわかったのか、現地のギャングの妨害が入る。
 背後の事情はそんなことなんだろうなあと想像はできるが、登場人物が魅力的で、RPGのように進んで行くドラマがおもしろかった。サントリー・ミステリー大賞受賞作。

ワイルド・ソウル 2007年1月4日(水)
 1961年、衛藤一家は政府の移民計画に応募してブラジルに渡った。しかし、アマゾンの奥地は強酸性土で耕作に適さず、耕した畑も氾濫に流された。マラリアや赤痢に冒され、多くの者が亡くなり、脱出した者もまともな仕事につくことはできなかった。その四十数年後、同じ入植地 にいた野口の息子で衛藤に育てられたケイイチ、コロンビアの麻薬シンジケートのボスに拾われた松尾、そして衛藤と共に砂金採りをしていた山本の三人が東京で落ち合った。日本政府と外務省に、アマゾン移民4万人の復讐を果たすためだった。女好きのケイは、たまたま見かけたテレビ局の元アナウンサーの記者貴子を計画に巻き込む。
 襲撃計画とは、そして成功するのか、また無事逃亡できるのか、警察の捜査はどこまで迫るのか?スケールの大きい悪漢小説で、犯行グループ、捜査陣、ブラジル人といった登場人物のキャラクターもおもしろい。大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞受賞作。ただ、推理小説だとは思えないが。

君たちに明日はない 2007年11月22日( 木)
 村上真介は、日本ヒューマンリアクトというクビ切り専門会社で、依頼された企業に出向いてリストラ候補者と面接し、退職を勧告している。真介自身、かつて勤めていた広告代理店をこの会社の面接でやめ、その後同じこの会社にスカウトされていた。公私混同で部下を切り捨てる建材メーカーの支店長、玩具メーカーの社会性の欠けたオタク研究主任、合併に伴って不本意な仕事に甘んじている高校の同窓生だった銀行員、頼りない恋人に家業にリストラと八方ふさがりの自動車メーカーのコンパニオン、音楽プロダクションの創業期からのメンバーで対立しているプロデューサー二人。それぞれが自分の人生を抱えている。「いったいおれは何様だ?自分でもたまに考える。こんな仕事の、いったいどこがいいのか−。」真介は、建材メーカーの面接で知り合った年上の陽子と付き合うようになる。陽子もキャリアアップを目指していた。
 リストラの面接の様子はそれだけでおもしろいものだが、背景にあるそれぞれの人生が描かれて興味深く読めた。山本周五郎賞受賞作。