井沢元彦

猿丸幻視行      

猿丸幻視行 2008年3月20日( 木)
 民俗学を研究している大学院生香坂は、製薬会社の社員から声をかけられる。W過去幻視効果”のある新薬のモニターになってもらいたいということだった。三十六歌仙のひとり、猿丸大夫の子孫ということになっている香坂は、猿丸大夫の霊を祭った神社に奉納された猿丸額の暗号 を解くため、天才民族学者である折口信夫の体に同化しようとする。・・・折口信夫は、友人の柿本の家に伝わる秘宝だという猿丸額、人丸額という歌額を見せられ、そのなぞ解きを挑まれる。
 柿本人麻呂・猿丸太夫同一人物説をめぐって、いろは歌や猿丸大夫の歌から暗号を解いていく、いわゆる伝奇ミステリー。この手のものはこじつけばかりで、好きな人は好きなんだろうが、読んでいてうんざりする。人間の意識をさかのぼって過去の人に同化するというSF風の趣向も、全く必要がない。最後に殺人事件があってミステリーの体裁をとってはいるが、こんなもので乱歩賞に応募する神経が知れないし、受賞させる選考委員の見識も疑う。1980年の江戸川乱歩賞受賞作。