岩井志麻子

ぼっけえ、きょうてえ チャイ・コイ    

ぼっけえ、きょうてえ 2004年8月25日(水)
 「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山の方言で「とても、怖い」という意味だそうだ。日本ホラー小説大賞受賞作。
 「ぼってえ、きょうてえ」:顔の左側がつりあがって売れない女郎が、寝物語に「きょうてえ夢を見るよ」と言いながら自分の生い立ちを語り出す・・・。
 「密告函」:岡山の寒村でコレラが流行し、助役がコレラ患者を把握するための密告函を作り、下っ端役人の弘三が調べ歩くことになる・・・。
 「あまぞわい」:そわいというのは汐が引いたとき現れる岩礁のこと。「尼ぞわい」という伝説を聞いて育った岡山の酌婦だったユミは、やはり「海女ぞわい」という伝説を聞いて育った漁師の錦蔵の嫁にもらわれて島に来るが、酌婦とさげすまれ、錦蔵には暴力に会う毎日だった・・・。
 「依って件の如し」:シズは兄利吉と、貧しい村の中でも最も悲惨な生活を送っている。そんな中兄は日清戦争に志願し、戦後シズが雇われた家の人間が惨殺される・・・。
 ホラー小説というので、「怖い」とはどういうことなのか考えてみた。実は、大変な怖がりで、映画なんかでも怖いシーンは下を向いて「どうなった?」とか聞いているし、夜道を歩けるようになったのも酒を飲むようになってから。でも何が怖いのと問いかけると考えてしまう。野良犬、親父狩り、そりゃ確かに怖い。でもまあ、意味が違う。「ぼってえ、きょうてえ」は、ビジュアル的には確かにものすごく怖いと思う。でも読んでいて、怖いという感覚は一度も感じなかった。
 この作品では、明治の頃(?)の岡山県北部の寒村の貧困で陰惨な生活とむき出しの性が描かれている。そんなところが、この作品集の山本周五郎賞受賞につながっているのかもしれない。そちらのほうがおもしろかった。

チャイ・コイ 2005年7月15日(金)
 婦人公論文芸賞受賞作というので買ったのだが、帯の「渡辺淳一、林真理子、両氏絶賛!!」に不吉な予感がしていたが、読んでみたら実際ただのエロ小説だった。性を通して人間のなんたらということでもなく、徹頭徹尾性欲だけの小説。こういうのをエロスというのだろうか?ホラーやミステリーがよくてエロはだめなのかと言われたら、好みの問題としか答えようがないけど。破いて捨てたくなったけど、もったいないから最後まで読んだ。本箱がいっぱいになったら真っ先に捨てよう。婦人公論自体、不倫・下ネタの投稿雑誌でしかなかった。
 おもしろいのは、こんな高級ホテルには入ったことがないだろうとか、毎日風呂に入る習慣がないのだろうとか、共産国だからこんな性のテクニックは知らないだろうとか、主人公の女性作家の植民地主義的な見下した態度。小説や作者自身を離れて、こんな女達が東南アジアを席巻・蹂躙しているんだろうなと思ってしまった。小泉よりはましかもしれないが。