伊藤たかみ |
助手席にて、グルグル・ダンスを踊って | ミカ! | 八月の路上に捨てる |
助手席にて、グルグル・ダンスを踊って 2006年10月25日(水) |
カオルは高校三年生。物書きの父と山手に住んでいる。友人の蔵持、幼馴染みの香代子、その彼氏で人気のある京元も皆山手の裕福な家の子供。カオルが父の赤いコンパーチブルに乗せてデートしているミオは貧しい西区の子。2年連続ミス・コンテストで優勝している香代子と雑誌の表紙を飾ったミオの優勝争いとか、父の新しい恋人で西区出身でミス・コンテスト3年連続優勝したシーナさんとか、山手の生徒と西区の生徒の喧嘩とか、たわいない挿話が続く。カオルたちは、ビールを飲みタバコを吸いながら、車でデートしたり、新しい店を物色したりして過ごしている。カオルの願いは、ミオと結婚して、山手に住んで、新しい洋服を買ったり、遊んだりする幸せな生活が続くこと。しかし、香代子やミオはそんな男の添え物で終わることに疑問を感じ出す。カオルにはその気持ちが理解できない。 文藝賞というと、超若い作家や超奇作を世に出すことで有名だが、これはなにかの冗談だろうか、それとも、今の若者の超子供な頭の中をえぐってみせて、格差社会を先取りして描いた秀作なのだろうか。 「ここで暮らす奴の大半は将来が約束されている。・・・七色に光る親の力を借りて、もっと大きくなれる予定ではある。・・・だけど、それはこの町で暮らすことが条件だ。この町から離れれば、・・・僕たちはみんな立ち枯れして死んでしまう。それこそ犬死だ。」「世の中は、グルグル、グルグル、回っているでしょう?だけど、キミも回っているの。・・・動くのを止めた時、世の中のことがみんな理解出来るのはそのせいなのよ、きっと。何だ、こんなことかって。・・・だけど、やっぱり止められないわ。私の回転だもの。・・・私たちのするべきことって、たったこれだけなんだから・・・」 |
ミカ! 2004年4月23日(金) |
ミカは野球やサッカーが男子よりうまくて、しょっちゅうけんかしている男まさりの小学6年の女の子。物語の語り手は、そのミカを優しく見守る双子の兄弟の繊細なユウスケ。別居している母、最近様子が変わってきた姉、別の女性と付き合い始めている父といった家庭の問題と、大人になりつつある心と身体の葛藤、そしてクラスの中の幼い恋愛、団地の空き家のベランダの下で飼っている変な動物・・・、そんなエピソードを通して、子供たちの瞬間を描いている。 ミカはよく涙を流す。しかし、泣いた次の日は「子供には幸せになる権利があるの。」と、あした、あさってを生きていく。 子供の視点で描いてあり、エピソードもありがちなもので、どちらかというと子供向けの読み物という感じで、大人が何かを期待して読んだら物足りないかもしれない。だけど、小学生、中学生の子供が読んだら共感できるんだろうなと思う。 |
八月の路上に捨てる 2009年8月26日(水) |
敦は飲料を配送するトラックの助手。明日三十歳の誕生日に離婚届を出すことにしている。映画の脚本家を目指していた敦と、雑誌編集者になりたがっていた知恵子は大学で知り合った。卒業しても脚本家を目指す敦と、興味のないマンション販売代理店に就職した知恵子。知恵子は食品関係企業の出版部門に転職して忙しく働くようになるが、人間関係が上手くいかず退社して病院へ通うようになり、敦が今度はアルバイトを毎日入れるようになる。二人の立場が入れ替わるたび、心が離れて行った。ドライバーの水城さんも離婚して子供を引き取って、稼げるようにとトラックに乗るようになった。敦は水城さんには自分のことを包み隠さず話すようにしている。そして、今日は水城さんがトラックを降りる日だった。 フリーターとか離婚とかといった現代の若者を描いたような社会的なキーワードで読むから芥川賞なのかもしれない。元奥さんは直木賞受賞作家。大差ないと思う。 敦と水城さんの関係がおもしろかった。「貝から見る風景」と「安定期つれづれ」を収録。変わった味わいのある上手い風俗作家という感じ。 |