いとうせいこう |
想像ラジオ |
想像ラジオ 2015年3月30日(月) |
深夜二時四十六分、リスナーの想像力の中だけでオンエアされる想像ラジオを始めたDJアーク。現在三十八歳の芥川は、東京での音楽事務所を辞めて、妻と一緒に小さな海沿いの町に帰り、今高い杉の木の上に引っかかったままで電波の代わりに想像を使って放送している。リスナーからメールが届き始め、中学の同級生からのメールには津波に襲われ逃げる途中流れていく芥川を見たと書かれていた。携帯に妻からの着信はない。想像ラジオが聴こえないのはどういう人だろうと、想像の中で小説を書き始めた。 途中で分かってくるとはいえ、あまり多くは語れない。東日本大震災に触発されて書かれた作品で、野間文芸新人賞受賞作。 「生きている人類が全員いなくなれば、死者もいないんだ。…生き残った人々の思い出もまた、死者がいなければ成立しない。…どちらかだけがあるんじゃなくて、ふたつでひとつなんだ。」 |