伊藤桂一

静かなノモンハン      

静かなノモンハン 2009年8月14日(金)
 昭和十四年五月、満州国、モンゴルの国境紛争から始まった関東軍とソ連軍の戦闘は、八月に激戦となり、多大の犠牲者を出す結果となった。この作品は、当時の生き残り兵への取材をもとに、鈴木上等兵、小野寺衛生伍長、鳥居少尉の体験を小説化したもの。招集されたばかりでほとんど訓練も経ず、長い行軍の間に体力も糧食も失われ、弾薬も残り少ない状態で、作戦も知らされず、戦車隊に突進し、砲撃から逃げまどう様は、農民を歩兵に仕立てた戦国時代の合戦となんら変わらない。そうした状況の中で、兵士たちは戦う術を学び、生死の感覚を研ぎ澄ませていく。
 「静かなノモンハン」という題名は、たぶん「(実に、みんな死んでしまった。みんな死んでしまったから、ここは今このように静かなのだ)」から。学校を出ただけで戦場を知らない参謀による戦争ゲームの犠牲は、これからさらに拡大していくことになる。 吉川英治文学賞受賞作。