石田衣良

池袋ウエストゲートパーク 少年計数機 4TEEN 骨音
電子の星 眠れぬ真珠    

池袋ウエストゲートパーク 2003年11月8日(土)
 池袋のチーマー、いわゆるカラーギャングを描いたバイオレンス物かと思っていたら、実際はハードボイルド風のミステリーだった。そういえば、テレビで一度チラッと見た時、人を洗脳する音の秘密がどうとかやっていた。
 主人公真島誠は、高校を卒業して池袋駅前の小さな果物屋の家業を手伝っている。池袋ウエストゲートパークというのは西口公園のこと。ここに週末の夜、子供たちが集まってくる。そうしてできた5人の仲間の一人の女の子が殺されたことから、事件に首を突っ込み、ガキのネットワークを使って解決する。街の裏の世界とか、いろいろなオタッキーとかが描かれていておもしろい。主人公がクラシック音楽を聴くようになったり、本屋へ通って本を読むようになったり、マックで文章を書くようになっていく過程もおもしろい。続編も読みたいが、切りがないだろうな。
 以前池袋で飲んだ帰り、ある人物が現れたら客引きのお兄ちゃんたちが直立して「ごくろうさまです」とか言っていた。西武デパートで堤社長を見かけた時のようなオーラを発していた。

少年計数機  池袋ウエストゲートパークU 2003年11月8日(土)
 「池袋ウエストゲートパーク」の続編。池袋のトラブル処理屋真島誠が、事件を裏から探っていく。
 「妖精の庭」:インターネットの覗き部屋の売れっ子にストーカーが取り付いた。小学生の同級生の女の子だった男から仕事を依頼される。
 「少年計数機」:ウエストゲートパークに、ひっきりなしに計数機で数えている少年が現れた。親しくなると、やがて誘拐されたと親に呼び出される。親はヤクザの組長、誘拐犯は異父兄だった。
 「銀十時」:ある日老人二人が現れる。養老院のアイドルのおばあさんがひったくりにあって骨折したという。
 「水のなかの目」:長い作品を書こうと三年前の少女誘拐監禁事件を調べ始めた誠の元に、池袋を仕切る3つのヤクザの組長達から風俗荒らしを見つけてくれという依頼が来る。
 探し出す相手というのはわりとすぐに見つかる。ミステリーというのは犯人を当てて終わりだが、この作品の場合、警察やヤクザの裏をかいくぐってどう解決するかというところが見ものなので、なかなか想像がつかず楽しい。それでも、ミステリーを読みつけていると最後の「水のなかの目」なんていうのはわかってしまったが。マコトや各登場人物のキャラクターがおもしろいし、街が生きているように描かれていて、ぐんぐん読んでしまう。

4TEEN 2005年12月14日(水)
 月島に住む中学2年生4人の、ちょっとした事件や冒険の物語。ぼくテツローはどちらかといえばまともで平凡、ジュンはチビだが秀才、ダイはでかくてデブ、ナオトは金持ちの子だが早老症で病気がち。
 「びっくりプレゼント」は、入院したナオトの誕生日プレゼントを、渋谷の街へ探しに出かける。「月の草」は、摂食障害で不登校になった同級生の女の子に、テツローが学級通信を届けることになる。「十四歳の情事」は、家庭内暴力に悩む若い人妻に思いを寄せるジュン、「空色の自転車」は、飲んだくれの親父を外に放り出して死なせてしまったダイが描かれる。そして、「十五歳の旅」は、春休みに4人で新宿の西口公園でキャンプしながら大人の世界を垣間見る話。
 語り手はテツローだが、基本的に独りになるシーンはまったくなくて、ほとんど4人の14才の物語。一つ一つは最後の頃の中学生日記みたいな感じで、少女小説の男の子版という感じだが、最後まで読んで、年齢を問わず普遍の感情を感じられた。
  「ぼくが怖いのは、変わることだ。みんなが変わってしまって、今日ここにこうして四人でいるときの気もちを、いつか忘れてしまうことなんだ。ぼくたちはみんな年を取り、大人になっていくだろう。世のなかにでて、あれこれねじ曲げられて、こうしていることをバカにするときがくるかもしれない。・・・・・・変わっていいことがあれば、変わらないほうがいいことだってある」直木賞受賞作。

骨音  池袋ウエストゲートパークV 2006年6月25日(日)
 池袋・西一番街の果物屋の息子で、ストリートの探偵でもあるマコトが街のさまざまな厄介ごとに巻き込まれるシリーズの三作目。作品ごとにクラシックの曲がどこか関連して紹介されるのが特徴。
 「骨音」:池袋のホームレス達が襲われて骨折させられる事件が続発し、ホームレスのリーダーから解決を依頼される。一方、よく通うハンバーガーショップのアルバイト・ハヤトのバンドのコンサートへ行くと、全身がしびれるような音が流れた。
 「西一番街テイクアウト」:夜サンシャインシティ・アルパの噴水の前で本を読んでいると、同じように読書している女の子がいて、熱を出して倒れたので家につれて帰る。その十一才の香緒の母親は連れだしパブで働いているが、ヤクザに仕事を止められていた。マコトの母が解決に乗り出す。
 「キミドリの神様」:池袋では「いけ!タウン」というNPO団体が発行する「ぽんど」という地域通貨が流通し始めていた。その代表小此木に呼ばれると、偽ぽんどが出回っているということだった。マコトはデザイン部門の顔写真をもらって、偽ポンドが出た店を回ってみる。
 「西口ミッドサマー狂乱」:池袋の少年ギャングGボーイズのリーダー・タカシに呼ばれて、ファッション店の呼び込みエディを連れて幕張メッセへ出かけると、ヘブンという組織の御厨という男が主催しているレイブというイベントが行われていた。御厨に依頼されたのは、スネークバイトというハードドラッグを会場で売っているウロボロスという組織を排除することだった。
 いつもながら、クールなキャラクター、ビビッドな街の表情、スピーディーな進行で、楽しく読めた。

電子の星 池袋ウエストゲートパークW 2007年1月26日(金)
 「東口ラーメンライン」:元Gボーイズの双子が始めたラーメン屋七生が、ネット上で執拗な嫌がらせを受けていた。Gボーイズのボス・タカシに依頼を受けたマコトは、情報屋ゼロワンに追跡を依頼し、七生にアルバイトとして詰める。
 「ワルツ・フォー・ベビー」:東京芸術劇場の裏側のテラスに白い花束とロウソクが置かれ、その前に五十過ぎの男が座っていた。五年前、上野のアメ横のチームのヘッドだった息子が殺されたのだという。マコトは、アメ横のチームのたまり場を訪れる。
 「黒いフードの夜」:西一番街のマコトの果物屋に前にビルマ人の少年が立ち、捨てる果物をもらえないかと言ってきた。父は政治運動で拷問を受けて働けなくなった難民で、その少年サヤーは生活のため、デリヘルで働いていた。
 「電子の星」:DOWNLOSERと名乗る人間から、池袋で消えた親友を探すのを手伝ってくれというメールが入った。店にやって来たのは、山形から来たテルというオタクだった。一緒にその親友のアパートを訪れると、パソコンに遺書のような動画が残されていて、机から見つかったDVDには恐ろしい映像が録画されていた。
 池袋ウエストゲートパーク・シリーズ第4弾。最近池袋もまったく行っていないけれど、時々読みたくなる。短編だからしょうがないが、あまりにもあっさりと事情がわかってしまうのだが、その中では「ワルツ・フォー・ベビー」が最後まで引っ張っておもしろかった。

眠れぬ真珠 2010年5月31日(月)
 内田咲世子は四十五歳、独身。「黒の咲世子」と一定の評価のある版画家で、父の残した湘南の別荘で暮らしている。深夜、挿絵のアイデアを考えるために入った行きつけのカフェで、更年期障害で意識を失った咲世子は、新人のウェイターに介抱された。徳永素樹という十七歳年下の青年で、期待された映像作家だったが、初作品の資金上のトラブルで東京を離れているということだった。その素樹が、咲世子のドキュメンタリーを撮りたいと言ってきた。咲世子自身、不倫相手の三宅と付き合いながらも、素樹に惹かれていた。しかし、素樹には椎名ノアという幼なじみで美しい女優の恋人がいた。
 「大人」の恋愛というのは、セックスが始まりでセックスが目的なのかという感じで、少年少女の恋愛と比べると余りに即物的でうんざりする部分もある。しかし、咲世子が素樹の進む道を思いながら、版画に新境地を開いていく展開はおもしろかった。島清恋愛文学賞受賞作。 石田衣良がこんなものも書いてみました、という感じだろうか。