乾くるみ

Jの神話 イニシエーション・ラブ    

Jの神話 2002年12月10日(火)
 ものすごい。全寮制ミッションスクールで女子生徒が塔から転落死というと、二階堂黎人の「聖アウスラ修道院の惨劇」のようだが、女探偵「黒猫」こと鈴堂美音子が登場すると、桐野夏生のようなハードボイルドの世界に一転する。そして、結局最近流行のバイオもの?かと思うと京極夏彦かはたまた夢枕獏かと展開していって、最後は・・・!?
 この探偵は、このデビュー作が初仕事ではない。夜はバーボンを飲むだけのこの20代後半の謎の女性が、仕事前に蕎麦をゆでて食べて出かけるというシーンは、なぜかどこかで読むか見るかしたことがある。登場作品が最終作品というのはもったいない。第4回メフィスト賞受賞作。

イニシエーション・ラブ 2008年4月14日( 月)
 side-A 7月、突然誘われた合コンで、僕、鈴木夕樹はショートカットの女の子成岡繭子と出会った。8月、同じメンバーで海へ行き、彼女から電話番号を教えられる。一週間が過ぎて決意を固めて電話し、初デートにこぎつける。僕はマユちゃんと呼び、彼女は夕樹の「夕」の字から、タックンと呼ぶようになる。マユに言われるまま、僕はメガネをコンタクトに変え、洋服を買い、免許の講習に通う。そして9月、彼女のアパートで結ばれ、クリスマスディナーまでこぎつけた。
 side-B マユのために内定していた東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職した僕は、7月から東京の親会社に派遣されることになった。車で土曜日静岡へ帰って日曜日東京へ戻るという生活を始めたが、8月マユに妊娠を告げられ、産婦人科で処置させる。静岡への足が遠のき、本社で同期の石丸美弥子に告白されて付き合うようになり、10月ちょっとしたことで腹を立ててマユに別れを告げてしまった。
 富士通のFM−7、オアシスという言葉におやっと思う。時代は20年ほど前だ。sid-A、side-Bに分かれ、各章には当時の《トレンディ》なヒット曲のタイトルが付けられている。side-Aでは異様なまでにうぶな《僕》が、side-Bでは傲慢な暴力男に変貌 している。文学しか読まないマユの部屋になぜか1冊だけあるアインシュタインの本、自分へのご褒美に買ったという大事なルビーの指輪をなくしたことなど、いろいろ引っかかる。「最後から二行目で、本書はまったく違った物語に変貌する」とか「必ず二回読みたくなる小説」と書いてあるから注意して読んだが、一種の叙述トリックだった。世間では誰も言わないが、自分では「Who's Whoトリック」と呼んでいる。このトリックを成立させることが目的の作品で、ストーリー自体はたいして価値がない。 男は悪いが女も怖いと思わされるが、時間にもうひとひねりトリックをかけてくれれば、読後感もよくなったと思うのだが。