稲見一良

ダック・コール セント・メリーのリボン    

ダック・コール 2004年5月13日(木)
 喜びのない単調な仕事に疲れて旅に出た青年は、河原で鳥を描く石を拾っている男と出会う。そして、その絵に導かれるように不思議な夢を見る。
 「望遠」は、記録映画の撮影で野宿し、朝目覚めて後はシャッターを押すだけという時になって、シベリヤ・オオハシシギという珍しい鳥を発見したCM制作会社の助手の若者、「パッセンジャー」は猟を追って隣の村の領域まで入り込み、そこで大量の珍しい鳩の群に出会う若い猟師の物語で、夢の達成と失望が描かれている。「密猟志願」は、癌に冒されて鳥を射落とすことを夢見ている壮年の男と、猟が得意な野生的な少年との出会いと冒険、「ホイッパーウィル」は、脱獄囚の追っ手に引きずりこまれた日系2世の元軍人と初老の保安官、そして逃げているインディアンの酋長の後裔の老人の物語。「波の枕」は、難破して海に投げ出された漁師と、カメとグンカンドリの不思議なめぐり合わせ。そして最後は、カモをおびき寄せるための木でできたダック・デコイが、少年ブンに拾われて温かい心を取り戻し飛び立つ話。
 作者は50歳過ぎて小説を発表し、この作品も60歳の時のもの。CM制作会社に勤め、狩猟を趣味とする実体験が反映されているが、男の夢と静かな美学が感じられる作品だ。山本周五郎賞受賞作。作者はその数年後亡くなっている。

セント・メリーのリボン 2007年12月29日( 土)
 「焚火」:女を助けようと一緒に逃げたが追手に殺され、一人歩いていた<おれ>は、焚き火の煙を見つける。近づいていくと、古びた小屋のそばで、一人の老人が姿の見ない相手と話をしていた。
 「花見川の要塞」:カメラマンの<俺>は、取材で花見川一帯を歩いているうち、草むらの中にトーチカを見つけ、そこで陸軍工兵軍曹の三平という少年と、ポォという担ぎ屋のおばあさんと出会う。二人には軍用列車が通るのが見えていた。
 「麦畑のミッション」:ジェームズはドイツを爆撃するB17の機長。その日も任務中、敵機の攻撃で下部球型銃座のハッチが開かなくなる。無事爆撃を終えて基地へ帰還できたが、車輪が出なくなる。管制塔の指示通り胴体着陸すれば、銃座の隊員は押し潰されてしまう。
 「終着駅」:長年東京駅で赤帽をしている雷三は、やくざらしい二人の男から荷物を預かるが、少し歩いたところで男たちは刑事に取り囲まれる。バッグの開いたファスナーから札束が見えた。
 「セント・メリーのリボン」:猟犬探しを商売にしている竜門の山里の事務所に、暴力団関係の女が仕事の依頼に来た。資産家の娘の盲導犬を探してほしいということだった。盲導犬が失踪した場所で張り込んで、犬の居場所を突き止めるが、そこにはもう一人の盲目の少女がいた。
 詩的でファンタジー色の強かった「ダック・コール」に比べて、この作品集ではハードボイルドにかなりこだわっている。「焚火」と「終着駅」はあっけなくていまいちピンとこない。「麦畑のミッション」は映画「アメージング・ストーリー」の中の一編とラスト以外は一緒。幻想的な「花見川の要塞」とストーリー性のある「セント・メリーのリボン」が良かった。