生田紗代

オアシス      

オアシス 2007年5月16日(水)
 駅前の駐輪場にとめていた自転車がなかった。芽衣子の家では、父が福岡に単身赴任した三年前から母が家の仕事をしなくなって「粗大ゴミ」となり、家を出る予定だった社会人の姉のサキと高校を卒業してアルバイトをしている芽衣子の三人で暮らしている。時々、離婚して近所のアパートに一人で住んでいる父の弟の和美叔父さんがきてくれる。
 芽衣子の盗まれた自転車探しと、たわいもない会話が続く。ちょっと変だけどなんということもない日常や会話を、淡々と超口語で描く作品が最近多いような気がするが、この作品もそんな一つ。思いがけない真相や結末が待っているのだが、だからといってたいして意味もないような気もする。一つ一つのエピソードも、軽くてシニカルでおもしろい作品ではある。
 「それにしても、家出と自立は違うのだろうか。成長して独立し家を出るのと、家出は違うのだろうか。どちらも親を捨てることに変わりはないのに。私はどうもその辺の違いがよくわからない。二十歳過ぎても、いまだに答が出ない謎である。」
 「普通に考えたら、母は私より先に死ぬだろう。そしたら一人で、毎日好きなことをしてあの家で過ごそう。もし母が寝たきりになったら、がむしゃらに働いてお金を貯めて、母をどこか気持ちのよい場所にある施設に預けよう。もう母の不幸を押し付けられるのはこりごりだ。」
 「オアシス」というのは、芽衣子とサキが夜コンビニへアイスを買いに出かけるとき口ずさんだロックグループの「オアシス」のこと。文藝賞受賞作。