池井戸潤

果つる底なき 鉄の骨 下町ロケット  

果つる底なき 2007年3月1日(木)
 二都銀行渋谷支店に勤める同期で回収担当の坂本が、「これは貸しだからな」という言葉を残して別れた後、車の中で蜂のアレルギーで死んでいた。坂本の妻は、以前伊木の恋人だった。翌日検査が入り、坂本が顧客の口座から金を引き出していたことがわかる。坂本の仕事を引き継いだ伊木は、かつて融資を担当していた東京シリコンを訪れる。連鎖倒産を救済せず、家族付き合いしていた社長の柳葉は自殺し、今は娘の菜緒が一人残っていた。坂本の残務を整理しているうち、伊木は東京シリコンから破綻を招いた得意先である信越マテリアルへの不審な融通手形を発見する。古い伝票を調査するうち、誰かわからないが妨害が入るようになる。
 急成長するベンチャー企業をめぐる銀行、商社のかかわり、銀行内部の権力闘争に、伊木と坂本、先輩、菜緒との人間関係が絡んだ企業ミステリー。この作品も、そこまでやるかなと思う部分はあるが、エンターテインメントなんだからそれもいいだろう。そこまでやるから現実に事件が起こるし、そこまでやらなければ小説にならないだろうから。江戸川乱歩賞受賞作。

鉄の骨 2013年1月22日(水)
 富島平太は、中堅ゼネコン一松組へ入社して三年現場で働いてきたが、突然本社の業務課へ呼ばれた。業務課は公共事業の入札を取り仕切る部署で、談合課とも呼ばれている。青白い顔の課長兼松、脂肪太りの平田、そして気の強そうな女子社員の柴田、そして平太は直轄の常務尾形に推されたのだという。早速、区の道路工事の仕事で一松組が落札するよう調整されたが、新規参入の会社が調整を拒絶して落札してしまう。次は、より巨額な地下鉄工事。平太は、天皇と呼ばれる大物フィクサー三橋を紹介される。平太の恋人は学生時代同じサークルで、偶然メーンバンクの白水銀行に勤める野村萌。萌は融資担当の先輩園田から一松組の経営状況や談合の問題を聞かされていた。そして、検察はこの談合や政治家の捜査を始めていた。
 ゼネコンの談合を描いた作品。企業小説というよりは、検察の捜査あり、恋愛あり、 というエンターテインメントで、登場人物も魅力的で、おもしろかった。吉川英治新人文学新人賞受賞作。

下町ロケット 2014年11月14日 (金)
 佃航平は、宇宙科学開発機構の研究員としてロケットエンジンの開発に携わっていたが、打ち上げに失敗して去り、父の後を継いで精密機械製造業の佃製作所の社長になっていた。エンジンを手掛けるようになり、会社の売上は三倍に伸びていた。ある日、大手機械メーカーに呼び出されると取引を打ち切られ、資金繰りに窮していたところに、同業の大手メーカーから特許侵害で訴えられた。そして、国産ロケットの開発計画を進めている巨大企業帝国重工は、水素エンジンのキーディバイスであるバルブの特許が佃製作所によって登録されていることを知り、その特許権を狙ってきた。
 下町の中小企業が夢とプライドと品質をかけて大企業に挑む。佃の会社も夢か現実化で割れるし、敵の企業にもものづくりがわかる人間がいる。掛け値なしにおもしろかった。直木賞受賞作。