伊集院静 |
乳房 | 受け月 |
乳房 2003年11月11日(火) |
渡辺淳一と伊集院静というのは、読みたくない作家の双璧だ。今回は、敷居を低くして読んでみた。「くらげ」は、大学の野球部をやめてその後失踪した兄を待ち続ける妹と兄の友人である主人公との十数年の物語。「乳房」は癌に冒された妻と夫の話。揚げ足を取るわけではないが、いくら知らない振りを通そうが、夫が仕事を休んで半年も病院で付き添っていれば、自分がどういうことになっているかわからないはずがない。リアリティがない。どこか陰のある男や女を描いて、それらしいストーリーを作っているが、あらすじを読んでいるみたいで、人物の内面が深く伺えることもないし、言葉に訴えてくるものもない。「薔薇」という漢字は書けるのかもしれないが、文体は凡庸である。それに輪をかけて、久世光彦の解説がひどい。業界人というのはこんなものだ。 |
受け月 2006年12月8日(金) |
野球がキーとなっている短編集。 「夕空晴れて」:少年野球チームに入った息子の言い方や仕種が、亡くなった夫の声に似てきた。こっそり試合を見に行くと、息子はバット拾いやグラウンド整備をしているだけだった。無理に野球好きを演じているのではと心配した母は、チームの監督に会いに行く。監督は夫の野球部の後輩だった。 「切子皿」:都市対抗野球のスターだった父は、母と息子を捨てて家を出ていた。母が亡くなって母名義の土地の登記証が出てきて、その土地のことで正一は京都にいる父へ会いに行く。 「冬の鐘」:鎌倉に小料理屋を構える佐山は、中学時代野球をやっていたが、家が貧しいため、相撲部屋へ入れられるという過去があった。 「苺の葉」:弟が原っぱで野球をして遊んでいると、大男がやってきてアンパイアをするようになった。縁日の喧嘩に巻き込まれたところを助けられた縁で、伸子は弟と三人で野球を見に行くようになり、そのうち二人で映画を見に行き、付き合うようになっていく。 「ナイスキャッチ」:高校野球、社会人野球のスターだった小高は出身校の監督を務めているが、なかなか優勝できず、その上息子が他の有力校へ進学していた。 「菓子の家」:麻布の名家の跡取りの善一は、次々と事業に失敗し、幼馴染みから借金した上で大阪へ行って破産宣告する。遠くへ逃げる前に東京へ戻り、自分が名前だけ会長になっている野球チームの友人に会う。 「受け月」:社会人野球のスターで名物監督の谷川は今季で引退することになっていた。娘の夫はチームの教え子で今は専務の石井の息子で、重病で入院中だった。 夫婦、親子、兄妹、あるいは野球の先輩、後輩の思いや葛藤を描いた人情話という感じだろうか。「苺の葉」、「受け月」が良かった。直木賞受賞作。 |