飯嶋和一 |
汝ふたたび故郷へ帰れず |
汝ふたたび故郷へ帰れず 2010年2月25日(木) |
ミドル級2位にありながら、つまらない試合をこなすだけの日々に嫌気がさし、負けるつもりで出た試合の後ボクシングをやめた新田駿一はアルコールに溺れていた。かつてコーチを受けた白鳥に『修理工場』へ連れて行かれ、身体を癒した新田は故郷のトカラ列島の宝島へ帰る。幼なじみの彦兄イはすでに死んでいたが、ずっと応援していたこととジムの下村会長の死を知り、走り始める。東京へ戻った新田は、白鳥の紹介でボクシング教室を営む小森のもとで復帰を目指す。 漆黒のハードボイルドの雰囲気が漂う作品。ボクシングのシーン、ボクサーの意識の動きは、経験はないが非常にリアルに感じられておもしろかった。昭和63年度の文藝賞受賞作 で、リバイバル版として刊行されたそうだ。 他に、心に傷を抱えて生きてきた父を描いた「スピリチュアル・ペイン」、マタギの里の行き場のない青年を描いた小説現代新人賞受賞作「プロミスト・ランド」を収録。著者は大仏次郎賞を受賞した歴史作家らしいが、小説現代新人賞から文藝賞、そこから歴史小説へという経歴はおもしろい。 |