伊吹有喜

風待ちのひと ミッドナイト・バス    

風待ちのひと 2017年3月8日(水)
 須賀哲司は、紀州にある美鷲に亡くなった母が残して家に、家の整理と西洋を兼ねて滞在していた。買物に出た帰り、美鷲に帰るドライバーに福を呼ぶペコちゃんと呼ばれている中年の女を乗せた。夜、海が見たくなって海に貼っていくうち溺れてしまい、その女に助けられる。福井喜美子という三十九で同い年の女は、次の日から家の片付けに来ることになる。哲司は、母が亡くなってから夜眠れなくなり、首が右に曲がらなくなり、吐くようになり、トイレから出られなくなった。六週間の休職が認められ、美鷲に来ていた。務めていた銀行は吸収合併を繰り返し、気が付けば吸収された側の窓際にいた。喜美も、息子、夫を亡くし、ヒッチハイクの旅を過ごし、夏の間だけ美鷲に帰っていた。二人は次第に心を通わせるようになっていく。
 心を病みかけた中年の男女の、夏休みの青春の物語。ポプラ小説大賞特別賞受賞作。筆者は、「ミッドナイト・バス」で直木賞候補となった。
 「何もかもコースアウト。道を踏みはずしたよ。」
 「踏みはずしんたんじゃないよ、風待ち中。いい風が吹くまで港で待機してるだけ。」

ミッドナイト・バス 2017年7月3日(月)
 東京の不動産開発会社で働いていた利一は、子供のアレルギーもあって、故郷の新潟県美越市に帰り、大型車のドライバー、ついで地元の白鳥交通のバス運転手として働いていた。妻の美雪は母と折り合いが悪く、子供を置いて家を出ていた。息子の怜司は東京で就職し、娘の彩菜には結婚を考えている人がいると言われた。利一自身、高速バスの運転で東京へ行った時は、元の職場の上司の娘、志穂の定食屋で過ごしていた。志穂を美越に呼び寄せて家に入ると怜司がいて、驚いた志穂は帰ってしまった。そして、ある日美雪が高速バスに乗り込んできた。父が入院していて、その世話や実家の片づけで時々帰っているのだそうだ。子供たち、そして別れた妻が抱える問題にかかずらううち、志穂との間に隙間ができていく。
 この前の直木賞候補作。ちょっとエピソードが多すぎるかなという感じもするが、おもしろかった。