本多孝好

MISSING ミッシング ALONE TOGETHER MOMENT FINE DAYS

MISSING ミッシング 2004年6月30日(水)
 小説推理新人賞受賞作を含む短編集。ミステリーといっても殺人事件の犯人を捕まえるわけではなく謎解きなのだが、北村薫や加納朋子の作品と違ってそれぞれが独立したストーリーだし、タイトルにあるように喪失感が強く漂う。
 「眠りの海」:飛び降り自殺に失敗して少年に助けられ、焚き火に当たりながら、教え子の女子高生と付き合いだし、別れなければならなくなり、最後のドライブで事故を起こして死なせたことを話す。話を聞いていた少年は、その事故の真相を解き明かす のだが…。
 「祈灯」:妹の友人幽霊ちゃんは、自分が幼い頃事故でなくなった妹だと思い込んでいる。しかし、幽霊ちゃんが火事現場で残された人を助けるために飛び込んで死んでしまった後で、事故の真相を想像してみる…。
 「蝉の証」:毎月老人ホームのおばあちゃんをたずねていると、仲の良かったおばあちゃんが孫にお金をだまし取られて、ホームを出て公園で死んでいたという。 今度は別のおじいさんのところに若い男が来て、それ以来そのおじいさんの様子がおかしいので調べてくれと頼まれて、調査を始めると意外な真相がわかる。得意に報告すると、おばあさんに「馬鹿だねえ」と笑われる…。
 「瑠璃」:仲の良かった年上のいとこのルコ。人と違った生き方を望んで高校も中退したのだが、いつか不倫恋愛、結婚、離婚を経験し、瑠璃色の目も普通の黒に変わっていた…。
 「彼の棲む場所」:小学校から高校まで同級だった友人は、今ではテレビでも活躍する有名な大学教授。その彼から呼ばれてあって話を聞くと、優秀で魅力的な彼の内側にあるくらい衝動のことだった…。
 「祈灯」の「高い所から夜の町を見下ろすとき、…あの小さな灯りの一つ一つに、知らない人のささやかな、それでもかけがえのない暮らしがあるんだって、そんなことを考える。でもそのあとは二通りに分かれる…そのささやかな暮らしのために祈る人と、そのささやかな暮らしを呪う人と」…「私は・・・祈る人になりたい」という言葉は寂しい。「蝉の証」のおばあちゃんの言葉も、父を亡くした今では胸に響くものがある。
 最後の2つは謎解きはないのだが、「瑠璃」なんかは長編で展開しても良かったかもしれない。

ALONE TOGETHER 2007年12月17日(月)
 柳瀬は、三年前数カ月通っただけでやめた医大の笹井教授に呼び出され、ある女性を守ってほしいと頼まれる。それは、立花サクラという十四歳の中学生で、笠井教授が人工呼吸器を止めて殺した女性の娘だった。不登校の子供が通う塾でアルバイトしている柳瀬は、生徒で膨大な人脈を持っているミカに、サクラの友達の紹介を頼む。そして、待ち合わせの店にやってきたのはサクラ本人で、私に構うなと伝えてと言われる。
 フリーライターを名乗る若い男が柳瀬に付きまとい、笠井教授の事件、そして柳瀬の母親を殺して自殺した父親のことを嗅ぎ出そうとする。柳瀬と父には代々ある能力があった。人の波長と同調して、その人の心の深層を暴き出すのだ。柳瀬の父はそれを呪いと呼んでいた。
 おもしろい題材なのだが、後味はあまり良くなかった。人間は意識の多元性の中で生きているものだろうし、そこから深層の真実を見つめ直すことで救われることもあるかもしれないが、柳瀬の行為は断罪することで終わっていて救いがない。それが呪いたる由縁なのだ。
 「永遠にその人を呪いながら生きていく。そうなんだろう。だったら、僕はそれ以上の祈りをその人のために捧げるよ。その祈りが呪いに負けたなら、そのときはどこへなりとも連れて行けよ。」

MOMENT 2009年8月21日(水)
 清掃のアルバイトをしている病院には、末期の患者にだけ伝わる噂があった。黒衣の男が深夜の病室に現れて、患者の願いことをかなえてくれるというものだった。ある老女にその話を聞いた僕は、大学の授業料と引き換えにその願い事を引き受けて、必殺仕事人伝説を引き継いでしまった。米田バア様の頼みは、昔約束を反故にされた男に家族に囲まれた幸せな姿を見せつけることだった。三枝老人の頼みは、戦時中小隊長の命令で切り殺した同じ隊の兵士の子供の家族に近づいて様子を報告することだった。今井美子ちゃん、十四歳、心臓に重い病を持つ女の子の頼みは、修学旅行先で出会った大学生を探して、一緒に撮った写真を渡すというものだった。いつも誰かの留守電に話しているのに、待っている人なんかいないと言う、乳がんを再発した上田さんには、かつての不倫相手から渡されたお金を返すように頼まれた。そして、有馬さんは早く死んで、保険金を別れた奥さんと子供に渡すことが願いだった。
 それぞれのストーリーに裏があり、「FACE」:三枝老人の真相には恐ろしいものがあるし、「WISH」:美子ちゃんの結末もホラーじみているし、「FIREFLY」:上田さんの場合はあまりに寂しくて哀しい。「MOMENT」では、噂の真相が明らかになる。病院に出入りする幼馴染みで葬儀店を継いだ森野とやりとりもおもしろい。
 「『死ぬまさにその瞬間、君は何を考えると思う?』『わかりませんよ、そんなこと』と僕は笑った。『どうせ死ぬときになれば嫌でもわかるでしょう』」
 「何度も当たり前に繰り返される季節の中に、いつか僕もいなくなるのだろう。やがて死んでいく人間なんてどこにもいはしない。そこにはただ、今を生きている人間がいるだけだ。」

FINE DAYS 2009年10月27日(火)
 「FINE DAYS」:転校してきた奇麗な子は、前の学校でまとわりついていた男が四人も自殺したという噂があった。そしてある朝、その子に嫌みを言った教師が屋上から飛び降りて死んだ。
 「イエスタデイズ」:反発して家を出て以来会っていなかった父が癌で入院し、呼び出されて病院へ行くと、三十五年前に別れた恋人を探してほしいということだった。かつて住んでいたというアパートを訪ねると、そこには若い日の父とその恋人がいた。
 「眠りのための暖かな場所」:私は妹を殺した。それ以来夜ほとんど眠れない。ゼミの教授に頼まれて、人付き合いのない学生の世話を頼まれる。その学生は病的に客を嫌がる姉と二人暮しだという。彼と同郷だという男が現れて、彼は姉を殺したのではないか、そして彼は子供の頃予知能力者として有名だったという。
 「シェード」:彼女へのプレゼントにと前から決めていたアンティークショップのランプシェードがなくなっていた。店に入ってレジカウンターの老婆に訊ねると、老婆はそのシェードの由来を語り始めた。
 一種の超常現象をキーとした愛の物語の中編集。「FINE DAY」は学園ミステリーのようなものだが、後味はあまり良くない。「イエスタデイズ」は特に驚きはないが、父との和解の物語。「眠りのための暖かな場所」は、この中では最もミステリー仕立てで力強さがある。「シェード」は、途中で「櫛」の話かなと勘付いてしまった。