広谷鏡子

不随の家      

不随の家 2003年9月30日(火)
 カバーの作者の写真には、確かに見覚えがある。NHKの記者だそうである。「不随の家」は、脳梗塞の後寝たきりとなった老女と娘の、介護をめぐる葛藤の悲喜劇のように始まるが、本当のテーマは「女の性」に対する嫌悪感なのだ。しかし、その辺の重さとか暗さはあまり伝わってこない。「瑠璃のなかの夏」は、図書館という閉鎖された世界から逃げ出したくてふとしたことから朝鮮語を習い始めた女性と、朝鮮人の父と日本人の母から生まれて朝鮮語が話せない女性の物語だが、日韓問題とかアイデンティティーとかといった言葉は出てくるのだが、何を言いたいのかよくわからない。
 先入観のせいかもしれないが、テレビの生活情報番組で、介護問題とか年金問題とかを取材してビデオでまとめて、パターン(パネル)に図やイラストを描いて、15分という枠の中にあれもこれも詰め込んで要領よくまとめて、こういうことなんですよと説明しているような感じ。あれこれ社会問題を見つけて、物語仕立てで説明しているような感じで、本当にあなたが言いたいことはあるのと聞きたくなる。文学は結局文体なのだ。短く、・・・た。・・・た。・・・た。と流れていく文章は、心にとどまるものがない。放送という職業病なのだろうか。