樋口有介

ぼくと、ぼくらの夏 ピース    

ぼくと、ぼくらの夏 2009年4月29日 (水)
 戸川は地元の名門高校の二年生。母が家を出て、刑事の父親と先祖代々の広大な屋敷に暮らしている。その父親が、同じ高校の岩沢訓子が自殺したと告げた。母親に呼ばれて新宿に出たら同じクラスの酒井麻子と会い、岩沢のことを知らせると、中学時代親しかったという。妊娠していたことにも自殺したことにも不審を抱いた麻子に誘われて、探偵の手伝いをすることになる。
 20年前のサントリーサントリーミステリー大賞読者賞受賞作。担任の美人先生が戸川に過剰に干渉しているような感じで違和感があって、どういう方向へ行くんだろうかとは思ったが。刑事の息子とテキヤの組長の娘という組み合わせもおもしろい。青春ミステリーだが、青春だけに残酷でもある。それにしても、主人公は高校生にしてはクールすぎるし、やりすぎな感じもする。「嘘みたい」「自分でもそう思う」「ぜんぜん知らなかった」「自分でも、知りたくない」ハードボイルドのセリフだ。

ピース 2012年1月26日 (木)
 秩父のとあるバー。東京から流れてきた成子がピアノを弾き、マスター八田の甥だという梢路が黙々と料理を作り、学生アルバイトの珠枝が写真家の小長、セメント会社の技術者山鹿、地元紙の記者麻美といった常連客の相手をしている。一見雰囲気の良さそうな舞台だが、裏にはどろどろした人間関係があるらしい。そして、成子がバラバラ死体で発見された。その前には、同じように歯科医が殺されていた。警察は成子と歯科医の接点を探るが何も見つからず、次の事件が起こる。3人とも右手の指が、野球のボールを投げるような形に曲がっていた。
 最後のほうまで読むと「ピース」というタイトルや表紙のイラストの意味がわかる。確かに、驚くべきつながりと動機だ。しかも、さらにその裏があるらしいし、登場人物たちの謎もまだ残る。おもしろかった。