東野圭吾

学生街の殺人 仮面山荘殺人事件 白夜行 探偵ガリレオ
容疑者Xの献身 むかし僕が死んだ家 どちらかが彼女を殺した マスカレード・ホテル
パラドックス13 ナミヤ雑貨店の奇蹟 夢幻花 禁断の魔術
祈りの幕が下りる時 ラプラスの魔女 人魚の眠る家 マスカレード・イブ
11文字の殺人 沈黙のパレード 希望の糸  

学生街の殺人 2003年8月2日(土)
 東野圭吾はシリーズものがあまりないし、作品数も多いのでどれから読もうか迷ってしまう。読んでみると、宮部みゆきと同じように、トリックというものがそれほど前面には出てこなくて、ストーリー作りのうまさで読ませる感じだ。
 殺人事件は、なぜかもてる主人公と変な刑事によるアリバイや動機の探索から割と自然に解決していくが、それでもまだページがかなり残っている。この作品では登場人物それぞれが秘密をかかえて生きていて、その秘密自体がもう一つの謎であり、この事件の真相を解く鍵でもある。ただ、そこまで読者が推理するのは無理なような気がする。読んで楽しめばいいということか。前作「卒業」で舞台となった店が、一度だけ出てくるのがご愛敬。

仮面山荘殺人事件 2003年12月31日(水)
 事故死した婚約者の両親に別荘での避暑に誘われて、高之は山荘を訪れる。義兄、婚約者の親友といとこなど、8人の男女が過ごしているところへ銀行強盗が侵入し、監禁される。そんな中で殺人事件が起こり、強盗たちは関係ないと言う。こうして、監禁され、さらに互いの疑心暗鬼の中で、犯人探しが始まる。
 閉ざされた空間での仲間の誰かによる犯行というパターンだが、実は最後に大どんでん返しがある。そんなーと思って読み返してみると、ところどころそれらしいことが書いてあるし、タイトル自体が最大のヒントなのだろう。しかし、こんなドラマ見たことがあるような気もするが。

白夜行 2006年1月21日(土)
 1973年、大阪の廃ビルで死体が見つかる。被害者は質店店主の桐原洋介。店の客で桐原が最後に立ち寄った先の西本文代が疑われるが、アリバイがあった。文代と交際していたらしい寺崎、そして桐原の妻と店員の松浦も疑われたがアリバイがあった。そして、寺崎は交通事故で死亡し、文代も台所のガスの吹きこぼれで事故死して事件は迷宮入りした。
 文代の娘雪穂は遠縁の唐沢家の養女になり、名門女子中学へ通い、そのまま高校、大学と進んでいく。桐原の息子亮司は高校生になる頃には主婦売春やパソコンゲームソフトの模造販売といった裏の世界へ入り込んでいた。物語は、時代の風俗を紹介しながら進んでいくが、雪穂にとって都合の悪い事態が起こりそうになると、いつも卑劣な手段で妨害が入り、危機が回避されるという出来事が何度か起こる。一方、質店主殺しを担当した刑事笹垣は、雪穂と亮司を「エビとハゼ」と称して二人の接点を捜査していた。次第に、亮司が雪穂の周辺にいて、雪穂から何らかの情報を得たり、雪穂に対する障害を除く工作をしたりしていることがわかってくる。
 テレビのドラマを見て気になったので読み始めたのだが、原作が写真の陰画だとしたらドラマは陽画。同じ登場人物、同じ事件で、その意味をまったく逆にしているのだ。もちろん真相は何も明らかになっていないだから解釈は自由かもしれないが、ドラマの1回目は原作では最後の刑事笹垣の推理を明かしているので、最後まで読んでそうだったのかというような思いはまったくなかった。これはあまりにもまずい。

探偵ガリレオ 2007年10月6日(土)
 警視庁捜査一課の草薙俊平は、超常現象的な殺人事件が起こると、学生時代の友人である帝都大学理工学物理学科助教授湯川学を訪ねる。「第一章燃える」では、バイクで集まって騒いでいる若者の頭が突然燃えた謎、「第二章転写る」では失踪した男のアルミ製のデスマスクが見つかった謎、「第三章壊死る」では心臓麻痺で死んだ男の胸に壊死した痣が残っていた謎、「第四章爆ぜる」では、ビーチマットで海面に浮かんでいた若妻を火柱が襲った謎、「第五章離脱る」では風邪で寝ていた少年が見えるはずのない容疑者の車の絵を描いた謎。
 第一章、第三章、第四章は直接の犯行手段でちょっと怖いが、第二章、第五章は付随的な証拠だ。犯人自体は人間関係の捜査で明らかになるので、犯人探しのミステリーではない。理系ミステリーというか、科学ミステリーというか。「ガリレオ」というのは捜査一課の人間たちが呼び始めた名前のようだ。この湯川、草薙を実験で驚かしたり、捜査に同行したり、単独で動いたり、結構お茶目でおもしろい。ミステリー的なトリックとしては「第一章燃える」がおもしろかったし、余韻も残る。
 東野圭吾はエンターテインメント的にうまいしおもしろいのだが、作品が多すぎてシリーズものもほとんどないので、どれを読んでいいか迷ってしまう。今度テレビドラマ化されるそうなので、先に 読んでみた。

容疑者Xの献身 2008年9月13日(土)
 弁当屋で働きながら一人娘の早苗を育てている花岡靖子を、別れた夫の富樫慎二が訪ねてきた。アパートに上がりこんで付きまとう富樫の頭を早苗が花瓶で殴りつけ、逆襲してきた富樫を靖子は炬燵のコードで絞め殺した。事情を察知した隣の部屋に住む高校の数学教師石神が、「何かお手伝いできるんじゃないか」と電話してきた。石神は死体を預かって、靖子と早苗にアリバイを作らせた。発見された死体は顔を潰され手の指を焼かれていたが、男性客がいなくなったとい うレンタルルームの室内の捜査と死体のそばにあって自転車の指紋から、被害者が富樫であることが判明した。警視庁の草薙は靖子に事情を聞くが、アリバイがあった。隣の石神も 訊ねるが、偶然帝都大学出身であることがわかる。そのことを帝都大学準教授の湯川に伝えると、湯川は一人で動き出す。石神は、湯川が天才と認める学生時代の旧友だった。
 緻密に計算された上での、不完全な工作やアリバイの謎。そして本当のトリックには、最後まで気がつかなかった。 湯川の石神への友情、石神の「献身」の真相も、直木賞にふさわしいものだった。

むかし僕が死んだ家 2008年12月26日(金)
 昔つきあっていた倉橋沙也加から電話があった。会って話を聞くと、死んだ父が残した鍵と地図の場所へ一緒に行ってほしいということだった。沙也加には小さい頃の記憶がまったくなく、そこへ行けば思い出を取り戻せるというのだ。森の中の別荘地にあるその家へ行くと、玄関の鍵には合わず、その裏側に入口を見つけて鍵を差し込むと、地下に降りる階段があって、そこから家の中へ入ることができた。家の中の時計はすべて十一時十分で止まっていて、二階の子供部屋には二十三年前の日付の教科書があり、六年生の御厨佑介という少年の日記が残されていた。
 Who is who?といったパターンのミステリー。日記の中で少年が学校へ通い、級友たちの家を行き来しているところを読めば、最後の謎解きはあらかじめ予想できる。タイトルの「僕」がちょっと紛らわしいから、とんでもない期待をしていたが、まあ普通のミステリーで、おもしろいことはおもしろかった。

どちらかが彼女を殺した 2014年5月3日(土)
 東京で働いている妹園子から「あたしが死んだら…」という電話を受け、帰ると言っていて家にも帰らなかったので、警官の和泉康正は名古屋から東京の妹のマンションを訪ね、部屋で園子の死体を発見した。タイマースイッチにつないだ電源コードを胸と背中に貼り付けて感電死していた。自殺のようだが、他の人間がいた気配を察して、康正は証拠品を採取し、かかっていなかったドアチェーンを切断して自殺に見せかけ、警察を呼んだ。園子は、大手出版社の社長の息子の佃潤一と知り合い交際していたが、学生時代からの親友弓場佳世子に紹介したら、いつの間にか二人が付き合っていた。康正はこの二人を疑い、復習しようとしていた。捜査にあたる練馬署は自殺と結論付けようとしているが、加賀という刑事がしつこく付きまとってきた。
 テレビドラマでおなじみの、加賀恭一郎シリーズ。この作品では、最後まで犯人の名が明かされない。袋綴じの解説がついているが、それも曖昧なまま。アリバイも、あれもありうるこれもありうると、二転、三転する。久々の東野作品、おもしろかった。

マスカレード・ホテル 2015年1月5日(月)
 都内で起こった殺人事件のうち、三件は被害者に何の関係もなく手口も違っていたが、同じような数字が書かれたメモがあったことから、同一犯による連続殺人事件とされた。そして、その数字から、次の事件現場としてホテル・コルテシア東京が浮かび上がった。警察がホテルで潜入捜査することになり、警視庁捜査一課の新田はフロントクラークとして山岸尚美の指導を受けることになった。
 ホテルではいろいろな出来事が起こり、それだけで連作短編が作れそうだが、実はそれも伏線になっている。新田と山岸のコンビがおもしろいし、所轄の能勢刑事も味がある。途中でターゲットが想像できた。ベストセラーの人気シリーズ。おもしろかった。

パラドックス13 2015年4月30日(木)
 ブラックホールの影響で時間が13秒スキップするP−13現象が予見され、警察にもその三月十三日午後一時十三分十三秒から十三秒間危険な任務に就かせないという指示が出た。警視庁の刑事久我は宝石強盗犯が潜むビルを監視していたが、抜け駆けしようとした所轄刑事の弟冬樹のミスのせいで撃たれてしまい、冬樹も撃たれた。冬樹が気付くと、人のいない車が暴走して次々と衝突を起こし、街からは人の姿が消えていた。街を歩いているうち母子を見つけ、次に若い太った男と 出会う。そして聴こえてきたラジオ放送に従って東京駅へ行くと、そこには死んだはずの兄と数人の男女がいた。そして、強烈な地震や豪雨の中、安全と食料を求めて破壊された無人の街を彷徨う。
 ミステリーというよりはSFといったほうがいいかもしれない。P−13現象がどういうものかいまいちすっきりしないし、果たして終わりがあるのかと思うのだが、そこにはもう一つの現象があった。おもしろいことはおもしろかった。

ナミヤ雑貨店の奇蹟 2016年4月16日(土)
 泥棒をして車で逃げる途中バッテリーが上がり、下見に来た時見つけておいたあばらやに忍び込んだ三人。しばらくすると郵便受けに封筒が落ちて、中を見ると悩み相談の手紙だった。家で見つけた四十年前の週刊誌には、「ナヤミ解決の雑貨店」という記事があった。適当な回答を書いて牛乳箱に入れるとすぐなくなっていて、次の手紙が郵便受けに届いた。手紙を読むとほんの少しの間なのに、一日たった後だった。そして手紙の内容から、書いている人間の時代はは三十年前も前だった。
 いくつかの悩み相談とその人物のその後が描かれ、登場人物たちには何らかの関係があり、その中心にあるのは児童養護施設養護施設「丸光園」だった。登場人物たちのつながりが意外でおもしろいし、なぜナミヤ雑貨店と丸光園なのかという謎も明らかになる。ミステリーというよりは、タイム・パラドックスSFファンタジー。そして浅田次郎風にほろりとさせる。中央公論文藝賞受賞作。

夢幻花 2016年5月23日(月)
 秋山梨乃の従兄でバンド活動をしていた尚人が、マンションから飛び降りで死んだ。その後、花を育てながら一人で暮らしていた祖父の周治が何者かに殺された。周治が秘密にしていた正体不明の黄色い花の鉢がなくなっていることに気づき、その花の写真をブログに掲載すると、重大な話がある、写真は削除したほうがいいというメールが届いた。その人物、蒲生要介はこの花にかかわらないほうがいいと言ったが、納得できず自宅へ会いに行くと弟の蒼太がいた。子供の頃から入谷の朝顔市へ行くことが家の決まりだった蒼太は、この花がありえない黄色の朝顔だとわかり、梨乃と一緒に謎を調べることにする。そして、事件を担当する刑事早瀬も周治に関係していた。
 原子力工学を研究していて先の見えない蒼太、蒲生家同様朝顔市へ行く習慣のある家の娘で初恋の相手伊庭孝美、水泳のオリンピック代表候補だったが今はやめている梨乃、プロを目指していたはずの尚人、様々な人生が事件の解決に収束していく。柴田錬三郎賞受賞作。

禁断の魔術 2016年8月16日(火)
 帝都大学理学部の湯川研究室を、工学部の学生古芝が訪れた。高校の物理研究会の後輩で、部員募集のためのパフォーマンスの装置を指導していた。その後、政治記者の姉がホテルで病死し、古芝は大学を退学して金属加工の町工場で働いていた。フリーライターが絞殺される事件があり、現場にあったメモリーカードには建物の壁に穴が開く動画があった。殺された長岡は湯川を訪ねていた。長岡はスーパー・テクノポリス計画を推進している大賀代議士を調べていて、古芝の姉が病死したホテルでの写真もあった。
 映画やドラマでもおなじみのガリレオ・シリーズで、安心して読める。 ポイントになるレール・ガンという装置、これを読んだ後で軍事兵器として新聞記事になっているので驚いた。

祈りの幕が下りる時 2017年2月11日(土)
 仙台のスナックで働いていた田島百合子が病死した。付き合いのあった綿部という男性が遺骨の引き取り手を探し当てた。警視庁に籍を置いている加賀恭一郎だった。
 小菅にあるアパートの1室で、滋賀県の押谷道子という女性の死体が発見された。住民の越川睦夫は姿を消していて、人物を推定できるものも何もなかった。捜査の結果、中学時代仲の良かった浅居博美に会いに行っていたことがわかった。浅居博美は門倉博美という名で演出家、脚本家、女優をやっていて、現在明治座で芝居をやっている最中だった。同じ頃、新小岩の河川敷でホームレスが殺されて焼かれた。小屋の住人とは別人だったという。松宮刑事は2つの事件の関連を疑う。越川の部屋からは日本橋にある橋の名を書いたカレンダーが見つかった。その内容は、加賀の母の遺品にあったメモと同じものだった。
 加賀恭一郎シリーズ。なぜ加賀が日本橋で「新参者」になったかの謎が解明される。誰が誰なのか、ストーリーが複雑だ。吉川英治文学賞受賞作。

ラプラスの魔女 2018年8月16日(木)
 温泉地で、近くの山を散策中の映像プロデューサー水城義郎が硫化水素中毒で死亡した。水城の母から、四十歳近く年の離れた嫁が何かするのではと心配だという相談を受けていた刑事の中岡は捜査を始める。地球化学者の青江は、県警の依頼で調査に協力することになる。温泉地の現場周辺では、過去に硫化水素が発生したことはなく、現在も検出されなかった。後日別の温泉地で同じような事故があり、無名の映画俳優が死亡した。新聞社の依頼で調査に訪れた青江は、事故現場で前の現場で見かけた少女を再び見かける。少女は、2つの現場に現れた青年を探しているのだという。そして、円華と名乗る少女は天候の急変を言い当てるなど、不思議な能力で驚かせた。青江に刑事の中岡が接触し、事件ではないかと言う。
 事件は思いもかけないような展開を見せる。SFまがいの現象やあり得ない殺人の同期の説明はかなりきわどい感じもするが、それだけにおもしろいといえばおもしろかった。

人魚の眠る家 2019年1月2日(水)
 娘の瑞穂がプールでおぼれて病院のICUに運び込まれた。薫子と別居中の夫和昌は、医師から心臓は動き出したが、自発呼吸はなく、脳は機能していない。臓器移植に同意すれば脳死判定をすると言われ、いったん同意することにしたが、握ったみずほの手が動いたような気がいて、決意を翻す。BMI(ブレーン・マシン・インターフェース)技術を開発している会社の社長である和昌は、他病院の呼吸装置や自社の技術を用いて、瑞穂の延命を図る。薫子は、妹の美晴、その子の若葉、祖母の千鶴子、そして瑞穂の弟生人を巻き込んで、眠り続けているだけということにして、瑞穂を育て続ける。
 脳死判定と臓器移植を問題にして小説だが、ミステリー的な要素も恋愛模様もちょっとだがあって、おもしろかった。

マスカレード・イブ 2019年8月25日(日)
 「それぞれの仮面」:山岸尚美は、ホテル・コルテシア東京のフロントオフィスに配属され、チェックイン業務についている。ある夜入ってきた客の一行に学生時代の恋人がいた。そして、内密の助けを求められる。
 「ルーキー登場」:新田浩介は、警視庁捜査一課の新米刑事。ランニング中の飲食店経営の実業家が刺殺されるという事件が起こった。現場に残った煙草の吸殻の捜査から容疑者は逮捕されたが…。
 「仮面と覆面」:新進女性作家が執筆のため連泊することになり、ストーカーと思われるグループがチェックインしてくる。尚美は、この作家のプライバシーを守ろうとするが…。
 「マスカレード・イブ」:大学で教授が刺殺されるという事件が起こり、新田は所轄署の女性警官とコンビを組んで捜査にあたることになる。共同研究していた准教授が容疑者として浮かび上がるが、当日の宿泊先をどうしても答えなかった。
 「マスカレード・ホテル」のシリーズ2作目だが、時系列的にはその前になるそうだ。 「それぞれの仮面」と「仮面と覆面」で山岸尚美を、「ルーキー登場」で新田浩介を紹介し、最後に二人の接点が生まれるという作品集。「それぞれの仮面」は、ホテルマンがこんなことしていいのかという不快感が残るし、「ルーキー登場」は結果的に未解決で終わる。そして、「マスカレード・イブ」もかなり古典的な類型で終わってしまう。いまいち物足りなかった。「仮面と覆面」は一種のどんでん返しで、おもしろかった。

11文字の殺人 2020年8月20日(木)
 推理作家である《あたし》の友人で担当編集者・冬子の紹介で付き合い始めた川津は、命を狙われていると言っていて、本当に殺された。以前川津と一緒に仕事をしていたカメラマンの新里美由紀に川津の仕事の資料を求められたが、その美由紀も殺された。川津が亡くなる前、スポーツセンターの社長・山森と会っていたことがわかって訪れる。その後、川津も美由紀も山森に招待された旅行で、クルーザーの転覆事故にあっていたことがわかる。その時一人亡くなっていて、一緒にいた恋人が犯人ではないかと推理して《あたし》はまた山森に接触する。深入りしないよう警告を受けたりしたが、なぜか山森からクルージングに招待された。
 なんとなく2時間ドラマっぽいなと思いながら読んでいたら、実際テレビドラマ化されていた。犯人は意外な人物で、さらに意外な展開となるのだが、何となくそうかもしれないという感じもする。東野圭吾の作品にしては、軽いというか浅いというか、それほどでもないという感じだ。

沈黙のパレード 2022年8月15日(月)
 静岡県の小さな町で火災があり、焼けたゴミ屋敷から住人の老女と思われる遺体と、身元不明の女性の遺体が見つかり、全国の警察に照会した結果、三年前に東京都菊野市で行方不明になった並木沙織と判明した。警視庁捜査一課の草薙がこの事件を担当させられた。ゴミ屋敷の老女の息子は蓮沼寛一という名前で、失踪事件前菊野市に住んでいた。蓮沼は、二十三年前東京都足立区で十二歳の少女が行方不明になり、その四年後遺体が見つかった事件の容疑者として草薙が逮捕した男だった。蓮沼は黙秘を貫き、裁判で無罪となっていた。今回の事件でも、DNA鑑定から逮捕に踏み切ったが、検察は処分保留とした。帝都大学の研究施設が菊野市にできて週何度か菊野市に通うようになった帝都大学物理学教授の湯川は、草薙に聞いた被害者家族が営む定食屋「なみきや」を訪れた。そして、蓮沼も菊野市に戻ってきて並木家を脅迫していた。秋祭りの有名になった「キクノ・ストーリー・パレード」の日、借りて住んでいた事務所の部屋で、蓮沼が原因不明の窒息死で死んでいた。
 並木の父とその友人、沙織の歌の指導者など、関係者による復讐が示唆されて、湯川の推理から犯行方法がわかりいったん解決するのだが、その後で一ひねり、さらにもう一ひねりあって、意外と人情味もあったりして、久し振りのガリレオ・シリーズはおもしろかった。 

希望の糸 2023年3月12日(日)
 自由が丘の喫茶店で店主の女性、花塚弥生がナイフで刺されて殺された。警視庁捜査一課の松宮刑事は被害者の人間関係の捜査を担当することになり、常連の客をあたるが、誰もが恨まれるような人ではないし、店でのトラブルもないと言う。最近よく通うようになった男性客、汐見行伸には恋愛関係が疑われたが、本人は否定した。十年以上前に離婚した元夫の綿貫哲彦に会うと、最近突然電話があって会ったという。こちらも何か隠している様子が伺えた。一方、松宮には金沢の老舗旅館の女将から、母からは亡くなったと聞いていた父親のことで話したいと連絡が入っていた。松宮の上司、加賀警部が綿貫の同居女性にアリバイをたずねると、犯行を自供し、事件はあっさりと解決してしまった。松宮は、汐見と被害者の関係、中学生の娘とのぎくしゃくした関係、綿貫が隠していることが気になって、捜査を続ける。
 プロローグの汐見の体外受精の事情、花塚弥生が離婚することになった事情、そして松宮の個人的な事情がリンクして、事件の背景が明らかになっていく。おもしろかった。