早見和真

イノセント・デイズ      

イノセント・デイズ 2017年10月21日(土)
 田中幸乃、十七歳のホステスの子として生まれ、養父から虐待を受け、中学時代不良グループに入り、強盗致傷事件を起こして児童自立支援施設に入り、別れた恋人敬介のストーカーとなり、その アパートに放火して母と双子の娘二人を死に至らしめ、死刑判決を受けた。幸乃は、「生まれてきて、すみませんでした」とだけ言い、傍聴席を振り向いて笑みを浮かべた。裁判傍聴オタクから女性刑務官になった佐渡山、幸乃の母が結婚した男の娘、幸乃の義理の姉の陽子、中学時代の友人の理子、幼なじみの慎一、敬介の親友聡、彼らは皆少しずつ真実を知っていたり、疑惑を抱いたりしていた。
 犯人当てミステリーとして読めば、最初のところで察しはつくが、人を惹きつける密かな魅力のある少女が転落した女として報じられて、それを受け入れて死を選ぶ心がやりきれない。日本推理作家協会賞受賞作。 

ザ・ロイヤルファミリー 2023年11月17日( 金)
 税理士の栗須栄治は、正月に訪れた神社で大学時代の友人大竹雄一郎に声をかけられ、叔父が馬主をやっているということで翌日の重賞レースに誘われる。断ってテレビで中継を見ていると雄一郎から電話があり、馬券を買わされる。また電話があって呼び出されると、馬主の山王耕造が祝勝会をしており、馬券を当ててしまった栄治は転職を誘われる。長野で税理士事務所をしている父が急死し、手伝いに帰らず裏切ったという思いを抱いていたので、山王の人材派遣会社で働くことにする。入社して三年経ち社長の専属マネージャーとして競馬にかかわることになり、ダービー、有馬記念といった夢を目指すことになる。
 馬主、調教師、騎手、生産牧場がチームとなり、二代にわたって夢を目指す物語。第一部希望ではロイヤルホープ、第二部家族ではその仔ロイヤルファミリーが描かれ、馬主も山王からその庶子中条耕一に、騎手も加奈子の息子翔平に代わり、<クリス>と呼ばれる栄治はそのすべてを支えてきた。レースなどがすべて描かれず、第一部、第二部の巻末に競走成績として示されているというところがおもしろい。山本周五郎賞受賞作。