初野晴

水の時計      

水の時計 2008年9月18日(木)
 暴走族『ルート・ゼロ』の三人の幹部の一人高村昴は、芥圭一郎という初老の男に声をかけられ、山の中腹の閉鎖された病院へ連れて行かれた。そこには、葉月という脳死状態の少女がチューブにつながれて生かされていた。葉月は月明かりを浴びると、意思伝達装置を通して言葉を話す。葉月は自分の臓器を必要とする人に分け与えてほしいと言った。時計が止まり続けている理由を知りたい、ほんとうに私が必要だったか、苦痛から解放してほしい、と語った。一千万円の報酬と引き換えに、昴は芥たちが探した移植希望者の中から選んで、バイクで臓器を届け始める。
 横溝正史ミステリ大賞受賞作。ミステリーとは言っても、犯人探しではない。移植を受ける相手の物語の各章ごとに一種の謎解きがあって、全体を覆う謎も最後に明かされる。 昴は一千万円で何をしようとしているのか、葉月はなぜ昴を選んだのか。暴走族と臓器移植という異色の組み合わせだが、抒情的な味わいがあった。