馳星周

不夜城 雨降る森の犬 少年と犬  

不夜城 2006年1月26日(木)
 劉健一は台湾人と日本人の母の混血。18まで台湾人の世界を支配している楊偉民の世話になり、その後は古買屋となって、古くからの台湾人、上海マフィア、北京マフィアなどが対立する歌舞伎町の中国人社会を生き抜いてきた。ある日、上海マフィアのボス元成貴に呼び出しを食う。元の片腕を殺したかつての相棒呉富春が歌舞伎町に戻ってきたのだという。同じ頃、夏美という女性が売りたいものがあると連絡してくる。正体を探ると、富春の女だった。健一は楊偉民、北京マフィアのボス、香港マフィアのボスに仕掛けを張って、生き残りをかける。しかし一つ仕掛けるたびに裏切りがあるし、夏美の正体もわからない。
 吉川英治新人文学賞受賞作。歌舞伎町のバーで中国人が清竜刀で殺し合いをしたとかといった事件が話題になっていた頃の作品だろう。おもしろといえばおもしろいし、歌舞伎町の裏の世界をリアルに(かどうかはわからないが)描いているが、このところノワール系の作品が続いているので、少々食傷気味。

雨降る森の犬 2020年11月7日(土)
 中学生の広末雨音は、父が亡くなった後、母がボーイフレンドを追ってアメリカへ行き、一人暮らしていたが、伯父の蓼科高原にあるロフトで暮らすことになった。伯父、乾道彦の家にはバーニーズ・マウンテン・ドッグのワルテルがいた。ワルテルは道夫には忠実だが、雨音は無視するようだった。隣の別荘には高校生の正樹がやってきた。厳格な父と継母とうまくいっていない正樹は、山岳写真家である道彦の影響で写真を趣味にしていた。天音は道夫に導かれて正樹と山に登るようになり、ワルテルとも家族になっていった…。
 「少年と犬」で直木賞を受賞した作家の犬と山を中心に据えた作品だが、犬を中心にした作品もシリーズになっているそうだ。おもしろかったが、料理の描写とかストーリー自体とか、知らないで読めば若い女性作家の作品かと思うかもしれない。

少年と犬 2023年8月24日(木)
 汚れ傷つき痩せた犬が、仙台、新潟、富山、福井、滋賀、島根、各地で出会って拾われた人たちを癒し、看取り、去っていく。東日本大震災で職を失い外人窃盗団の送迎に手を染めた男、運転の男が事故死した後犬と一緒に逃亡するフィリピン人の泥棒、トレーニングに熱中して働かない夫と無農薬野菜などのネットショップで生活を支える妻、事故で両親と自分の片足を失った女子高生、ヒモを殺してしまった風俗で働く女、亡くなった妻と同じ癌を患った猟師の老人、震災で釜石から熊本へ逃れた夫婦と口を開かなくなった息子。犬にはマイクロチップが埋め込まれていて、飼主は釜石の女性だが震災で亡くなっていた。そして、犬はなぜかいつも同じ方向を見つめていた。
 最終章で奇跡のような事実が明らかになる。一匹の犬でリンクする連作短編集で、おもしろかった。直木賞受賞作。