葉室麟

蜩ノ記      

蜩ノ記 2014年3月8日(土)
 豊後羽根藩の檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰を起こして隠居の身となり、向山村に幽閉されている戸田秋谷の監視役として山間の村に預けられることになった。戸田秋谷は若い頃から文武に優れ、郡奉行に抜擢されて農民に心服しない者はいないと言われるまでになっていた。それが、江戸屋敷で側室と密通し小姓を斬り捨てたとして、十年後に切腹、それまで家譜編纂を続けるよう命じられていた。庄三郎は家譜の清書を続けるうち、妻の織江、娘の薫、息子の郁太郎を心を通わせるようになり、秋谷の人柄に信頼を持ち、江戸での不祥事に疑問を抱くようになる。村では、特産の筵を独占する商家への不満から、一揆や強訴の動きが出ていた。
 直木賞受賞の時代小説。 郁太郎の親友の農家の子供源吉が健気だし、庄三郎の刃傷沙汰を起こした水上信吾、黒幕である家老の中根兵右衛門でさえある意味人格者であり、清々しい印象が持てた。ミステリー仕立てのところもあり、おもしろかった。