葉真中顕

ロスト・ケア 絶叫 凍てつく太陽  

                                    
ロスト・ケア 2017年4月30日(土)
 二○一一年十二月、X地方裁判所では、のべ四十三人もの人間を殺害した〈彼〉に判決が下されようとしていた。傍聴席には、〈彼〉に対する怒りも憎しみも湧くことのない、〈彼〉に救われたと思う被害者の遺族もいた。〈彼〉は寝たきりや認知症になった親の介護に苦しむ家庭に盗聴器をしかけて監視し、家族が留守の間に忍び込んで『処置』していた。二○○七年、検事の大友は、違法行為で摘発された介護ビジネス企業フォレストから流出した資料から、死亡による契約修了者のデータを調べていて、ある異常な事態に気がつき、調査を開始した。
 介護の現場の惨状と社会制度の矛盾を追求した社会はミステリーだが、あっと驚く仕掛けがある本格ミステリーでもある。おもしろかった。日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

                                    
絶叫 2017年6月19日(月)
 二○一三年一〇月、江戸川区でNPO法人の代表理事神代の死体が発見された。女性から通報があり、その女性が姿を消していた。二○一四年三月、国分寺の単身者用マンションで音信不通になっていた住民の女性の死体が発見された。死体は十匹以上の飼い猫に食われていた。国分寺署の奥貫綾乃は、身元確認のため住民の鈴木陽子の戸籍をあたり、結婚と死別を繰り返していたことを知る。鈴木陽子は初恋の人と結婚して東京に出て、離婚した後、オペレーター、保険の外交員をし、最後はデリヘルで働いていた。鈴木陽子には保険金殺人の容疑がかかり、交通事故死の被害者も加害者も神代のNPO法人の関係者だったことから、二つの事件が結びつくのだが…。
 奥貫は最後まで鈴木陽子の死に納得がいかず、ある想像をする。最後は、桐野夏生の「OUT」のように爽快かもしれない。吉川英治新人文学賞、日本推理作家協会賞ノミネート作品。

                                    
凍てつく太陽 2024年12月16日(月)
 昭和十九年十二月。北海道庁警察部特高刑事の日崎八尋は、室蘭市の軍需工場大東亜鐵鋼「愛国第308工場」の朝鮮人人夫の飯場に、脱出事件捜査のため潜入していた。親しくなったヨンチュンをだまして解決して札幌へ戻るが、工場関係者の殺人事件のため、教官だった室蘭署の能代刑事に請われて、再び室蘭に派遣される。犯行声明に書かれたスルクという名に、母がアイヌである八尋には心当たりがあった。連続殺人の現場を発券するが、軍の憲兵は自害として処理しようとする。そして同じ特高刑事でありながらアイヌの八尋を毛嫌いする三影に殺人犯として逮捕され、網走刑務所に収監される。そしてそこには八尋が逮捕したヨンチュンがいた。
 終戦間際の室蘭の軍需工場 、「皇国臣民」とされた朝鮮人やアイヌ、特高と憲兵の対立、連続殺人事件、脱獄、謎の兵器開発、犯人の真相、内容てんこ盛りで、初めのほうはとっつきにくかったが、読んでいくとどんどん引き込まれた。そして、想像もつかないつかないどんでん返し。日本推理作家協会賞、大藪春彦賞受賞作。