羽田圭介

黒冷水 スクラップ・アンド・ビルド    

  
                                    
黒冷水 2006年1月30日(月)
 中2の弟修作は、高2の兄正気の部屋を嬉々としてあさる。兄は気づいていて、陰湿な罠を仕掛ける。そして、それぞれいかに相手が悪いか母に言いつけあう。正気は学校でカウンセリングを受けて、一度は弟を許そうと思うが、実際に姿を見ると憎悪がむらむらと燃え上がり、心臓が黒くて冷たい水に浸食されていく。客観的に事態を把握している自分に対して、異常な弟やそれに気づかない母に落胆して、正気は家を出て学校の高層ビルで暮らし出す。そして、中2の後輩青野から思いがけない話を聞くことになる。
 《完》のページをめくると、そこには「折原一」的な展開が続いている。弟のあさり、兄の報復、兄弟の確執は狂気じみてエスカレートしていくが、大団円と思ったその後にあるのはブラックホラーという感じの気味悪さ。作者17歳の時の作品で、文藝賞受賞作。
  
  
                                    
スクラップ・アンド・ビルド 2018年10月25日(木)
 カーディーラーを退職した後、健斗は花粉症と腰痛に悩まされながら、中途採用の面接と行政書士試験の勉強と恋人とのセックスで日々を過ごしている。同居している祖父は「早う迎えにきてほしか」と繰り返す。健斗はその願いを叶えさせようと、体力を奪う過剰な介護をすることにして、自身は筋トレで自分を鍛えることにする。
 作者は一時期テレビによく出演していたので、主人公の社会批評的な主張や文体が作者自身と重なって、妙な感じがする。ブラックな感じで始まるが、物語的には結局落ち着くところに落ち着いたという感じもする。芥川賞受賞作。