蜂須賀敬明

待ってよ      

待ってよ 2018年8月2日(木)
 世界的なマジシャン、ベリーは招待を受けて海辺の街へやってきた。迎えに来たのはこうこというお腹の膨らんだ女性だった。着いた日の夜、騒がしいので部屋を出ると、「産まれそうなの」と言うので一緒に出ると、なんと墓場へ向かい、墓から老婆を掘り出した。娘のありさだという。この町では、時計の針が逆に回り、人は老人として墓で生まれ、次第に若くなって、乳児となって娘の胎内に還って死ぬのだという。ショーが終わって街を出ようとしたベリーだが、街に留まることにする。ベリーは還る娘を持たない迷子の幼児を世話するこうこの幼稚園の仕事を手伝いながら、ありさの面倒も見て、ありさはベリーのマジックに興味を示すようになる。
 人生が逆に進むという発想はおもしろいし、死への道筋がはっきりしすぎているから哀しくもある。なかなか良かったと思う。ミステリーではないと思うが、松本清張賞受賞作。