玄侑宗久

中陰の花 光の山    

中陰の花 2005年2月9日(水)
 おがみやのウメさんが、自ら予言した日に亡くなった。臨済宗の僧侶である則道は幼い頃からウメさんの家に入り浸って可愛がってもらっていたので、最期を看取る。妻の圭子は霊的なものに関心を持っているようで、意味もなく包装紙で大量の紙縒りを作っている。ウメさんの四十九日の前、紙縒りを組んで網にしたものをかけて、二人だけでウメさんと流産した子供の法要をする・・・。
 中陰とはあの世とこの世の中間を言うそうだ。則道は、僧侶でありながら自身神秘的な体験も経験し、中陰にひかれていく。現役僧侶による芥川賞受賞作。
 「朝顔の香」は、強姦されて実家を出て、各地を転々としながら一人で生きてきた女の話。この作品でも霊媒師が登場する。 霊媒師、新興宗教などの神秘主義に対して、宗教家として踏み込んでいきたいという志向があるようだ。

光の山 2017年3月30日(木)
 福島在住の僧侶である芥川賞作家が書いた、3.11後の福島の人々の物語。 「あなたの影を引きずりながら」は、マイナス二度の避難所で肺炎にかかって死んでしまう女性と、東電に就職して被爆してもう付き合えないという交際相手。「蟋蟀」は、避難所で知り合った女性と身寄りのない女の子と暮らすようになった僧侶の、グループホームに入って毎日クルクル回って拝むようになった父。「小太郎の義憤」は、行方不明の夫の遺体を確認するため、子供にDNA検査を受けさせる話。「アメンボ」は、放射能を恐れて夫を残して娘と北海道へ移った幼馴染の里帰り。「拝み虫」は、ガンで余命わずかでカマキリのような姿勢で亡くなっていた妻の思い出にカマキリを飼い、除染作業をしながら、若い男女の結婚式をプロデュースしようとする男。「東天紅」は、寝たきりの妻の介護のため、避難区域に住み続ける夫婦。そして、「光の山」は近未来の、東京大震災が起こり、富士山が噴火した後の福島に、世界中から放射能を浴びに来るという不思議な物語。
 震災の直後から二年間にわたって書かれた短編集。そういえば、見聞きする情報はすべて外側の人間が作ったもので、内側からの声はほとんど聞こえていないようにも思う。「芸術選奨文部科学大臣賞受賞作。