玄月

蔭の棲みか      

蔭の棲みか 2003年9月12日(金)
 作者は在日韓国人2世で、この本の中篇3編も在日朝鮮人社会の底辺でうごめく人々が描かれている。
 「蔭の棲みか」は、戦争で手首を吹き飛ばされ、戦後働きもせず何もしないで在日朝鮮人のバラック街で過ごしてきた老人を描いたもの。週に一度ボランティアでやってくる美しい主婦や、戦傷補償の話に心が動き、十年一日のような人生が突然動き出す。芥川賞受賞作。
 おもしろかったのは、「舞台役者の孤独」。主人公は両親、近親者を次々と亡くし、朝鮮人の多い地域の他の子供たちと同じようにぐれていくが、二十歳で新聞や週刊誌や本を読むようになり「更正」する。夫に捨てられ物置小屋に棲みついて地域の若者たちの相手をして暮らしている女、カナダ人の牧師崩れ、済州島からやってきて覚醒剤の売買をしている母の弟、不良仲間たちをめぐる生活が描かれていくのだが、ところどころ主人公自身の想像が入るので、何が事実かわかりにくくなる。作者が主人公を描いている中で、主人公も自分自身を劇の中の登場人物としてストーリーを作っているのだ。