船戸与一

山猫の夏 虹の谷の五月    

山猫の夏 2007年4月12日( 木)
 ブラジル東北部のエクルウという街は、アンドラーデ家とビーステルフェルト家という二つの家に支配され、両家は私兵を雇い血を血で洗う抗争を続け、警察も軍も牧師もそれぞれから金を受け取ることで介入せず、町の住人たちもどちらかと取り引きすることで対立していた。「おれ」は伯父を頼ってブラジルにやってきて、今は、死んだ伯父の妻だったマーイ・マリアの店の酒房をまかされていた。ある日、タキシードを着こんで柑橘系の香水の匂いのする長身の東洋人が現れた。「山猫」と名乗るその男は、弓削一徳という日本人だった。アンドラーデ家の息子とビーステルフェルト家の娘が駆け落ちしてしまい、ビーステルフェルト家から捜索を依頼されたということだった。そして、「おれ」は山猫の助手にさせられて、乗ったことのない馬に乗って捜索の旅に出た。
 山猫は捜索の謝礼をもらうこと以上の計画を持っていて、それは捜索のたびから帰還した時始まる。最後に、山猫の正体とか本当の目的とかわかるのだが、なんとなく取ってつけた感じがしなくもない。全般的に漫画的で、あまりおもしろくはなかった。吉川英治文学新人賞受賞作。

虹の谷の五月 2006年5月31日(水)
 トシオ・マナハンは、フィリピン・セブ島の辺地ガルソボンガ地区に住む中学生。娼婦だった亡くなった母と日本人との間に生まれたのでジャピーノと呼ばれ、元抗日人民軍の戦士だった祖父と暮らし、闘鶏の軍鶏を育てている。近くに住むラモン、メグの兄妹に食事をもらい、リベルタ婆さんのところへ届ける。そんな毎日が続いていたある日、日本人の画家と結婚して裕福になったクイーンという女性が帰ってきたことから、トシオもガルソボンガ地区も大きな変化に巻き込まれていく。
 リベルタ婆さんの息子で政府と戦う新人民軍から分かれてただ一人ゲリラ活動を続けているホセ・マンガスが住む「虹の谷」への道を知っていたことから、クイーンを案内することになる。クイーンとクイーンの雇った男達はホセを捕まえようとしているらしい。そして、クイーンがもたらした金銭が地区の人たちを変えて行く。
 フィリピンの辺境を舞台に、一人の少年が銃撃戦に巻き込まれ、社会の腐敗や人間の堕落を知り、そして大人へと成長していく過程を描いた大作冒険小説。直木賞受賞作。