深水黎一郎

エコール・ド・パリ殺人事件 最後のトリック 人間の尊厳と八○○メートル  

エコール・ド・パリ殺人事件 2011年8月1日(月)
 銀座で一、二を誇る暁画廊の社長暁宏之が、自宅で胸にナイフが刺さって死んでいるのが発見された。二階の部屋は密室状態で、外に誰かの足跡が残されていた。発見したのは執事で、当時屋敷には妻でかつて天才少女画家と言われた龍子、娘の彩菜、作男で知的障害のある勘平作男がいて、家政婦の桃山は休みをとっていた。捜査にあたった警視庁捜査一課の刑事海埜の甥でフリーターの神泉寺瞬一郎が偶然絵を見に訪ねてきて、絵を見る口実に捜査の手助けをすることになった。
 慶應義塾大学文学部大学院博士課程出身という著者の、芸術探偵シリーズ第一弾。 各章の初めにエコール・ド・パリの画家の解説(暁宏之の著作からの引用)があり、どんな高尚なミステリーかと思えば、結構ドタバタな要素もある。意外な結末で、読みながら推理する余地はあまりないような気がするが、おもしろいことはおもしろかった。

最後のトリック 2015年1月20日(火)
 新聞に連載小説を掲載中の作家である〈私〉のもとに、香坂誠一という人物から手紙が届き、そこには読者が犯人であるというアイデアを2億円で買って欲しいあり、香坂の少年時代の思い出らしい覚書が同封されていた。何度か手紙が届いた後警察の訪問を受け、香坂が殺人の容疑者であり失踪したと知らされた。
 作中、〈私〉はなぜか超心理学研究者の古瀬博士を訪れ、テレパシーの実験に立ち会ったりする。読者が犯人というミステリー小説最後のトリック が果たして成り立つのか、最後まで読むとなるほどという感じ。しかし、あくまでも作中作品の読者に対して成り立つだけで、それも一見関係なさそうなエピソードが成立してこそのこと。テレパシーのトリックがおもしろかった。

震源の尊厳と八○○メートル 2015年4月8日(水)
 「人間の尊厳と八○○メートル」:ある事情から古生物学を断念してサラリーマンをしている私は、得意先との会食が早めに終わって物足りず、以前行ったことのあるバーへ入った。一口飲んだところで、突然「八○○メートル競走しないか」と話しかけられた。どうしてと聞くと、人間の尊厳のためだと答えた。
 「北欧二題」:北欧を旅した僕はちょっと不思議な光景に遭遇した。
 「特別警戒態勢」:皇居を爆破するという脅迫状が届き、内閣府のコンピューターも侵入された。刑事のパパは特別警戒に動員され、夏休みの帰省もなくなった。
 「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」:結婚した夫は善人過ぎて借金を作った。私は食事に少しずつ毒を入れて完全犯罪をもくろむ。
 「蜜月旅行」:職場の花と見事結婚した泰輔は、学生時代のバックパック旅行の経験を活かして、パック旅行では経験できないパリを案内しようとする。
 表題作は意外な結末、そしてもう一ひねりがある日本推理作家協会賞受賞作。 「北欧二題」は特にどうということもない。「特別警戒態勢」はもしかしてと思った結末に近かった。「完全犯罪」は最後まで善人に翻弄されるという結末。「蜜月旅行」はきっとこうなるという展開だったが、ハッピーエンドで良かった。