深田祐介

炎熱商人      

炎熱商人 2007年3月30日(金)
 昭和四十五年、荒川ベニヤ株式会社の社長与田は、ビル建築用のコンクリート型枠に、フィリピン産のラワン、ミンダナオ島のものより品質が劣るものの値段の安いルソン島のものを使うことを思いつく。フィリピンのラワン材では出遅れていた鴻田貿易株式会社に話を持ちかけ、マニラ事務所の小寺所長、本社木材部の鶴井、現地採用のフランク、荒川ベニヤから出向した石井が中心になって、プロジェクトを進める。
 父が日本で生活したことのあるフィリピン人、母が日本人で、佐藤浩という名前で日本人学校へ通い、日本軍と行動をともにしていたフランクの戦中の回想と、石井と偶然出会ったスペイン系フィリピン人の娘との恋愛を絡めながら、人格者の小寺や日本語、英語、タガログ語を使うフランクがフィリピンの政界、上流階級に入り込んで、現地の業者や華僑と交渉してビジネスを開拓していく様子が描かれている。
 戦中の回想部分と、現在のビジネスの部分は、それぞれ独立して作品にしてもいいかとも思うが、フランクの中で戦中の日本軍と現在の日本企業には重なるところがあり、また人と人との意外な出会いやつながりをもたらして、単純な企業小説ではない拡がり感じさせる。
 昭和57年の直木賞受賞作。当時、こういった分野には興味がなかったので、この作家も初めて読んだ。