藤田宜永

愛の領分 大雪物語    

愛の領分 2004年6月26日(土)
 仕立屋の淳蔵のもとにある日突然、旧友の高瀬が訪れる。淳蔵は信州の老舗旅館の息子だったが、旅館が人手に渡り、しばらくして東京で仕立屋に弟子入りする。その頃客として出会ったのが高瀬で、この高瀬こそが旅館を乗っ取った男の息子だった。しかしそんなわだかまりもなく、連れられて夜遊びをするようになる。それがしばらく会わなくなったのは、高瀬が結婚した美保子を好きになってしまい、関係を持ってしまったからだった。再会した後招待されて故郷を訪れると、美保子は筋無力症を患いやつれてしまっていた。そこで出会ったのが、かつて旅館で働いていた太一の娘佳代。こうして、53歳の淳蔵と39歳の佳代の恋愛が始まる。
 直木賞受賞作で、当時夫婦で受賞と話題になったものである。大人の恋愛小説といえば聞こえはいいが、あまりいい印象は受けなかった。若い人の恋愛というのは人生に大きな影響を与えるし、その瞬間が人生の全てであり、全人格をぶつけあうものだが、中高年の恋愛というのは打算というか不純というか、どこか相手を骨董のように値踏みしたり、グルメを味わうような趣がある。この作品でも、再会した美保子には嫌悪感を覚えつつ、同時に出会った佳代には早くも触手を伸ばしている。恋愛の進行の過程も、何のエピソードもなく三度目に会った時は大人の了解で旅館に泊まる。 淳蔵の冷たい目とか、佳代の絵の寂しさとか、そういったところがあまり掘り下げられていない。そういうキャラクターを使ってストーリーを作っただけという印象で、正直言って、底が浅いというか、不潔感しか 感じなかった。

大雪物語 2020年1月25日(土)
「転落」:派遣切りに会い、姉にも母親にも見捨てられた良太は、ひったくりをして老婆を負傷させた。姉に電話すると既に警察に知られていて、両親が保養所の管理人をしていたK町の別荘に忍び込むが、大雪に閉ざされてしまった。
「墓掘り」:忠志は遺体搬送の運転手で、直美という女性の母親の遺体をK町まで搬送していたが、大雪のため高速が通行止めになり国道に下りるとそちらも車が動かなくなった。
「雪男」:父が怪我をして母が世話に行き、高校生の佳代は一人留守番をすることになった。飼い犬の姿がなく、好きな犬のところへ行っているのだろうと思い、雪の中を向かうのだが、その家は自分を振った同級生の家だった。
「雪の華」:達雄が妻の親戚の家を借りて開いている花屋の前のバイパスの車が動かなくなり、車から降りてきた女性はかつて付き合っていた人だった。
「わだかまり」:自衛隊員の忠夫は除雪にK町へ出動するが、作業中向かいのアパートでふと見かけた女性は、失踪した姉に似ていた。
「雨だれのプレリュード」:大雪に閉ざされてコンサートが中止になり、秀光は別れた妻朋恵に出会いのきっかけになったK町の雪の写真を送る。その返事にコンサートが開かれていたらショパンを心で聴いているとあった。
 避暑地として名高いK町が大雪に閉ざされ、その中で様々なドラマが起こる。吉川英治文学賞受賞作。おもしろかった。何と1月30日に亡くなられたのだ。ご冥福をお祈りします。